【ホームズゆかりの地】「バスカヴィル家の犬」の舞台になった「ダートムア(Dartmoor)」。荒涼とした魔犬伝説の地へ。

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今回のホームズゆかりの地は、いつも参照している「Finding Sherlock’s London」に出てくるロンドンのゆかりの地ではなく、遠く離れた場所を訪問してみることにします。

 

ダートムアといえばバスカヴィル家の犬

ホームジアンにとってダートムアと言えば「バスカヴィル家の犬」。

正典の中で4作ある長編の中でも人気の高い作品で、その舞台となっているのがダートムアです。

ダートムアはイギリスの南西部デボン州にある台地で、岩山と荒野が広がる荒涼とした場所です。

 


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ダートムアには、留学中にコースメイトからデボン州に住むお母さんのお宅へ招待されたときに、途中で立ち寄りました。

 

ダートムア訪問

行ってみると確かに荒涼としたという言葉がぴったり。夕方に行ったのですが、暗くなったらかなり寂しい場所であることが伺えます。現在は国立公園となっていますが、上の地図のとおり、あまりに広いのでぶらっと散策というのは難しく、車で行けてラッキーでした。

この荒涼とした恐ろしい雰囲気に魔犬の伝説がぴったりと来るところも「バスカヴィル家の犬」の人気の秘訣があるのだと思います。では、ワトソン博士がこのダートムアをどのように描いているのでしょうか。「バスカヴィル家の犬」から引用してみるとこのように記しています。

「窓外には四角に区切られた青々とした畑地や、低く生いしげる木々のはるかかなたに、小山のいただきが鋸の歯のようにぎざぎざと憂鬱にあわくかすんで夢の中の不思議な景色のように、かすかにうすれていた。」

これはホームズの代理としてヘンリー・バスカヴィル卿とモーティマー医師とともにダートムアへ向かう車中から見た景色を描写した物です。

列車からではありませんが、ダートムアはこんな感じです。

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 では、上記以外にダートムアの出てくる箇所を抜き出してみます。

 

バスカヴィル家の犬

登場シーンは次の通りです。(延原謙訳)

私は自分の医書をおさめてある貧弱な本だなから医師録をとり下ろして、ひろげてみた。モーティマーという名の医者は何人かあったが、問題の人はすぐにわかった。私はその項を読みあげた。ジェームズ・モーティマー 王立外科医学協会準会員、一八八二年入会、デヴォンシャー、ダートムア、グリンペン現住。

(中略)ホームズはしばらく黙考してからいった。「一言でいえばあなたのご意見は、ダートムアの地には悪魔がいるから、バスカヴィル家の人には危なくて住めない、とこういうのですね?」

(中略)モーティマーはひどく驚いて、「えッ、尾行が? 何ものですか、それは?」「残念ながら私にもわかっておりません。ダートムアのあなたのお知りあいか近所の人で、まっ黒なあごひげをもじゃもじゃさせた人がありますか?」

(中略)「そういうわけで、私として今すぐダートムアへ行くことができないのはおわかりくださると思います」
「それでは誰がよろしいでしょう?」
 ホームズは私の腕に手をおいた。
「このワトスン君がひき受けてくれるといちばんいいのですがね。」

(中略)「父が南海岸の小さな家に住んでいましたので、館を見たことはありません。十代の少年のころ父が亡くなりますとそのまま、友人をたよってアメリカへ行ってしまったので、きょうのダートムアゆきは初めてのワトスン先生と同じで、沼沢地方を見るのを楽しみにしています」

(中略)私がダートムアの沼沢地へいった当座、シャーロック・ホームズへ書きおくった報告はさきに引用した通りであるが、これから先は報告の再録ではだめだから、当時の日記によって記憶をよびおこして、物語をつづけることにする。

(中略)「手をつけるにはまだ二時間ひまがあるから、その間に食事をしておきましょう。それからレストレード君には、ダートムアのすがすがしい夜の空気で、ロンドンの霧でよごれたのどを洗濯させてあげますよ。え、来たことがない? そんなら生涯忘れられない印象が残るでしょうよ」

(中 略)彼のわる知恵が発達していることは、あの朝僕たちの尾行をたくみに振り切って逃げたのでもわかるし、御者を僕が調べるだろうと予測して、ちゃんと僕自 身の名をいっておいたなどは、じつに頭の機敏なところを示しているじゃないか。あれ以来僕が事件を引き受けたのを知って、ロンドンではとても手をくだす機 会がないと見てとったので、ダートムアへ帰ってヘンリー卿の到着を待つ気になったのだ」

(中略)方法はまず三つあるという。その一つはまず南米へ走って、そこで相続権を要求する。そしてその地のイギリス当局の身許証明をとって、イギリスへは帰ってこないでそのまま相続してしまうのだ。第二の方法はしばらくロンドンへ出て、そこで巧妙な変装をして、あらためてダートムアへ乗りこむのだ。

 

ではダートムアの様子を写真でご紹介していきます。

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バスカヴィル館がどこにあるのかについては諸説ありますが、このときは事前研究も十分ではなく、またダートムアをあちらこちらゆくだけの時間もなかったので断念。

以前紹介した河村幹夫さんの「われらロンドン・シャーロッキアン」では、バスカヴィル館を探ってダートムアを探検する様子が描かれていて、いつか私もしてみたい旅の一つです。

 

「白銀号事件」

ダートムアを舞台にした作品はもう一つあります。失踪してしまった競走馬を探す「白銀号事件」です。こちらはダートムア北部のキングズ・パイランドという街が舞台となっています。ちなみに今回行ったのは東部でした。

ではダートムアについて言及されているシーンを延原謙訳で見てみましょう。

「ワトスン君、僕は行かなきゃなるまいと思うよ」

ある朝、いっしょに食卓についているとき、ホームズがいった。

「行くって、どこへ?」

ダートムアへさ――キングズ・パイランドだ」
 べつに驚きもしなかった。いな、むしろ私は、いま全イングランドでうわさの種になっているこのとんでもない事件に、ホームズが関係しないのを、不思議にさえ思っていたのである。

(中略)イングランド随一の名馬が、そうながく行方の知れないわけがない。とりわけダートムアの北部のような人口の稀薄な地方のことだから、そんなことはあり得ないと考えたのが失敗のもとさ。

(中略)ストレーカーには妻があって、厩舎から二百ヤードばかり離れたところにある小さな家に住んでいた。子供はないが女中を一人おいて、気楽な暮らしだった。この 付近はきわめて寂しいところで、ただ半マイルばかり北のほうに、タヴィストック市のある請負師が、病人や、ダートムアの新鮮な空気を楽しみたいという人た ちをあてこんで建てた、別荘風の家が一群あるばかりだ。

(中略)「ちょっと」私はホームズをさえぎった。「ハンターは犬をつれて飛びだしたとき、厩舎の戸締りをしないでおいたのかい?」
「いいところだ! あっぱれな質問だ! その点がきわめて大切だと思ったから、僕はきのうダートムアへ電報で問いあわせてみた。ハンターは出るときかぎをかけたそうだ。そして窓は、人間のはいれるほどの大きさはないという。

(中略)莫大な賞金もかけられたことだし、ダートムアのジプシーどもがしきりに目をくばっているが、いまのところ全然わからない。

(中略)捕われたので、じつはキングズ・パイランドの白銀号と栗毛や、ケープルトン厩舎でサイラス・ブラウンが管理している第二の人気馬デズボローについて、なにか 予想の材料を得たいと思って、わざわざダートムアまで出かけてきたんだと、自分から進んで述べた。そして前夜、まえにいったような行動をとったことも否定 はしなかったが、それについては他意あったわけでは決してなく、ただ確実な材料がつかみたいばかりにやったのだと言いきった。

(中略)タヴィストックの小さな市についたのはもう夕方だった。ここはまるで楯の中央の突起のように、ダートムアという広漠たる土地の中央にぽつんと存在する小さな市である。

(中略)私たちは今晩の夜なかの汽車でロンドンへひき揚げることにします」ホームズが大佐にいった。「おかげでダートムアの美しい空気を、しばらく呼吸させていただきました」

(中略)その晩ロンドンへの帰りを、私たちは寝台車の一隅に席をとったが、前週の月曜日にダートムアの厩舎で起こったできごとを、順序を追ってホームズが話し、そし ていかにしてそれを解決するにいたったかという一条を語り聞かせてくれたから、汽車の無聊を感じるどころか、ロス大佐にしても私にしても、時間のたつのを 知らなかったくらいである。

 ここで出てくるキングズ・パイランドという地名は実在しない物ですが、その近くの街としてダヴィストック市が登場しています。このタヴィストック市は実はダートムアの西部にあって、ホームズが言っている「ダートムアの北部のような」と書かれているのとは矛盾しているようです。

こちらがタヴィストックです。

ホームズはこのように述べています。

キングズ・パイランドはタヴィストック市から東へ二マイルばかりだが、それから荒れ地ごしにさらに二マイルばかりゆくとケープルトンで、ここにはもっと大きい調教場がある。

これだけヒントがあるので、キングズ・パイランドの位置も特定できそうな気がします。タヴィストックにも行ってみなければならなそうです。

 

四つの署名

舞台とはなっていませんが、「四つの署名」でも、ダートムアにあった監獄について言及があります。「バスカヴィル家の犬」でも、ノッティング・ヒルの人殺し ことバリモア夫人の弟セルデンがプリンスタウンの監獄から脱獄したことが書かれていますが、同じ監獄のことを言っているのだと思います。これも本当に監獄 があったそうなので、その場所も行ってみたかったのですが、このときは行けなかったので今後の宿題です。

こちらが延原謙訳の記載となります。


「五十万ポンドの財宝の分けまえをとる権利のあるこのおれが、生涯の半分をアンダマンの防波堤工夫で暮し、これからさきの半分をダートムア監獄の溝掘囚でおくるのかと思うと、ちょいと妙なもんでがすよ。」

 

 

ダートムアの景色

ダートムアは訪れてみると英国の他の場所とはまったく違う風景がひろがっていて新鮮に思いました。他に同じような風景をみたことはありませんでした。背の高い 木はあまりなく、灌木のような木がところどころにあって、さらにむき出しになった岩が見えます。また行ったのが秋に入りつつある季節だったからか色合いも 寂しげに思いました。

 

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寂しげな雰囲気ですが、そんな場所でも花があるとほっとします。

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あたりが暗くなる頃にダートムアを後にしました。

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Tomo’s Comment 

今回訪問時はラッキーなことに友人の実家に行くドライブの途中だったため寄ることができました。

残念だったのは事前にあれこれと調べられなかったことと、あまり時間もなくあちこちにいけなかったことです。

いつかきちんとレンタカーを借りて、数日かけてバスカヴィル邸やキングズ・パイランドなどの探索にいきたいものです。

 

4 件のコメント

  • 夕暮れで霧が経ちこめていたら怖くて一人では歩けないでしょうね>< 地図で見ても広い公園ですが、夜間は立ち入り禁止になるのでしょうか・・ NHKで放送したホームズのドラマで見たそのままです。 ダートムアはジメジメしていて湿気が多そうに感じていましたがTomoさんの行かれた時期が良かったのかな 綺麗な公園ですね。

  • >Bettyさん、こんばんは。
    夜はきっと真っ暗なんでしょうね。キャンプ場や宿があればいいですが、あてもなくさまようには広すぎますね。私が行ったのはほんの一カ所なので、もっとあちこち行ってみればよかったと思います。沼地もおおいようなので、そのへんはジメジメしてたかもしれません。

  • タートムアの素晴らしい風景と解説を満喫しました。
    私も過去にこの地を訪れた事があるのですが、写真で見てもあの広大な国立公園の何処にあったのかさっぱり思い出せません。
    話しはか変わり、ホームズと関係無いのですが、ダーチムアの更に西にボドミンムアーがあります。見る限り差はないのですが、荒涼感はすごいです。今年春に訪れましたが、地元の方は「ダートムアなぞ比較にならない」と、すごく自慢してました。

  • >鉄郎さま、コメントありがとうございます。
    地図の左のほうにボドミンというところが見えますね。ここのことですね。荒涼感を味わってみたいです。また行きたいところが増えてしまいました。私はさらに左下のランズエンドという場所が思い出深いです。地の果てにふさわしい断崖から海を臨んだことを覚えています。

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