【公衆衛生】日本で70年ぶりにデング熱の感染が発生。デングってどんな病気?感染経路と予防法など。

ガーナの病院

 

ネットで日本のニュースを見ていたら、代々木公園で蚊に刺された人を中心にデング熱の感染が見つかっているとのこと。この記事を書いている9月2日の時点で22人の患者さんが確認されているそうです。まずは患者さんの快癒をお祈りしたいと思います。

日本に住んでいる方にとってはデング熱と言っても聞き慣れないかもしれません。一方で海外、特に熱帯・亜熱帯の途上国に行ったことがある人には馴染みの病気だと思います。

エボラもそうですが、ニュースなどで未知の感染症について報道されると恐怖心を感じると思いますが、ただ恐れるのではなくきちんと自体を把握することが大事。

ということで、日本では馴染みの薄いデング熱について少し調べてみたので紹介したいと思います。

 

感染症の基本知識

病原体

デング熱はウイルスによって発症する病気です。ウイルスってよく聞く言葉だと思いますが、感染症を起こす病原体としては他にも寄生虫、細菌、プリオンなどがあります。寄生虫が起こす病気でよく知られているものはマラリア、細菌は結核、プリオンは狂牛病などでしょうか。話題のエボラ出血熱やインフルエンザはウイルスが原因の病気です。

 

宿主と感染サイクル

感染症一般に言えるのですが、感染のサイクルというものがあり、予防したり伝播を阻止するためにはこのサイクルのどこかを切っていかなければなりません。そのためには、その感染症がどのようなルートで感染しているのかということを把握することが第一です。

例えば、マラリア(これもかつて日本にもあった病気です)は人間と蚊(ハマダラカ)との間で感染が成立しています。マラリア原虫が人間や蚊の体内で様々に形を変えていくという複雑さはあるのですが、簡単に言うとマラリア原虫のいる蚊が人間を刺し、人間がマラリアを発症し、その人間を刺した蚊に原虫が入り、その蚊が人間を刺すという感染のサイクルになっています。

この場合、寄生虫を媒介する蚊と人間は宿主と呼ばれています。マラリアの場合は宿主は主に人間と蚊、狂犬病であれば人間と犬(コウモリや猫、その他の野生動物も)ということになります。

このサイクルと宿主が分かっていれば、この輪っかのどこかを切ることで感染が防げることになるのですが、これが一筋縄ではいかないところに感染症対策の難しさがあります。マラリアの例をとると、人間が蚊にさされないようにする(蚊帳を使う等)、人の血を吸った蚊を殺す(殺虫剤を壁に塗っておく)、蚊の数そのものを少なくする、マラリアが発症しないように予防薬を飲んでおく、といったところで鎖を切ろうとしています。

しかし、日本ではマラリアを征圧できましたが、途上国ではこれらを徹底することも難しく、未だにアフリカでは大きな死因の一つとなっているのです。

ワクチンで予防できる感染症の場合は、基本的にはワクチンの接種率を上げることで感染を止めることができますが、途上国では接種率を100%にすることがこんなんなため、まだはしかやポリオも撲滅できていないのです。

 

潜伏期など

感染症が症状を現すまでの時間を潜伏期といいます。マラリアでいれば蚊に刺されてから高熱が出るまでの期間は概ね2週間前後。HIVなどは10年以上潜伏期がつづくケースもあります。

また病原体に感染してから、感染力を持つまでの期間も病気によってまちまちです。結核は人間から人間にうつるのですが、体内に結核菌がいるだけでは感染することはなく、咳をするようになって初めて他の人に対して感染力を持つことになります。

マラリアでいえば、人がマラリア原虫を持つ蚊に刺されてもすぐには感染力はなく、マラリア原虫が体内で変化し血中に増えた段階で、刺した蚊に移るのです。これは蚊も同様で、マラリアに感染した人間を刺しても、すぐに他の人に感染できるわけではなく、一定の時間の後に感染させることができるようになります。

 

デング熱の特徴と対策

感染サイクル

上記をデング熱に当てはめてみます。まず宿主は人間(霊長類も含む)と蚊ということになります。マラリアと同じですが、マラリアがハマダラカを媒介とするのとは違って、デング熱を媒介する蚊はネッタイシマカとヒトスジシマカが主なもの。このうちネッタイシマカは感染能力が高いのですが日本にはほとんどいません。従って、現在日本での感染源はヒトスジシマカということになります。

このヒトスジシマカは夏のみ活動する蚊ですので、10月くらいまで活動し卵を産んで死んでしまいます。(一匹の蚊の寿命は1ヶ月ほど)卵で冬を越すのですが、デングウイルスが卵に残ることはないので、次世代にウイルスが引き継がれることはありません。

また蚊の行動範囲は50〜150メートル程度ですので、ウイルスを持った蚊が違う地方まで移動することは稀です。(車や飛行機に紛れ込んで、ということはあるかもしれません。)

刺された人が発症するまでの潜伏期間は3〜15日(多くは5〜7日)ということですので、通常ウイルスを持った蚊に刺されてもすぐに熱が出るわけではありません。(発症しないで済むケースもあります。)

またウイルスに感染した人を蚊が刺すことで蚊にウイルスが移ることのできる期間は発症前日から発症5日後まで(要は血液の中にたくさんのウイルスがいる状態。これをウイルス血症といいます)。

さらにウイルス血症の人間を刺した蚊の中でウイルスが増殖して唾液腺に移動して感染力を持つまでにも7日程度時間がかかります。ちなみに、蚊は人間を刺すときに唾液を先に注入して血が固まらないようにしてから吸血します。(この唾液がかゆみをもたらします。)つまり蚊の口(というか針)にウイルスがついているのではなく、いったん吸ったウイルスが体内を回って唾液の中に混入して初めて感染させることができるといういことです。

デング熱は直接的な治療法は確立されていませんが、対症療法で治療を行えば死亡する確率は1%程度。まったく治療をしなくとも1〜5%の死亡率となります。ただし変異症状であるデング出血熱となると死亡率は6〜30%と跳ね上がります。日本では海外で感染した患者さんがいますが、今の所死亡例はありません。

 

予防法

感染のサイクルはデング熱に感染した人間を刺した蚊が別の感染していない人間を刺すことで感染するという繰り返しです。このサイクルを切るには、人間が蚊に刺されない(厳密に言えば、ウイルスを持った蚊に刺されないことと、感染した人がウイルスを持たない蚊にさされないという二つの意味)ということが重要です。

まだ実用化されているワクチンや予防薬はありません。

長袖・長ズボンをはく、虫除けを使う、ヒトスジシマカの活動する日中に蚊の生息場所近くに行かない、といった対策の他に、蚊を減らすために殺虫剤で蚊を駆除する、蚊が産卵しやすい水たまりをなくしていくといったことが求められます。また発症した患者さんを蚊が刺すことも避けなければなりません。

 

今回の感染について

発症した患者さんが共通して訪れていた代々木公園の蚊が発生源という見方が強いようです。

最初の患者さんが確認されたのが8月20日。二人目の患者さんが24日に発症したそうです。二人目の方は8月16日から18日に代々木公園近くにいたそうです。つまり、潜伏期間は8〜10日ということになり、上記の潜伏期間とも合致しますので代々木公園で感染した可能性は高そうです。他の患者さん達もみな代々木公園周辺にいたということです。

おそらく海外旅行中にデングウイルスに感染し帰国後に発症した人(正確に言えば発症前日も含めて)を代々木公園付近の蚊が刺して、その後一週間程度経過して感染力を持った蚊が次に人を刺し、その刺された人がデング熱に感染、3〜15日後に発症したということになると思います。そういった蚊が何匹いるのかは分かりませんが、患者さん達がいた代々木公園の場所が100m以上離れていたそうなので、もしかしたら複数いるのかもしれません。都が蚊の対策をしているようですので、これで感染力を持つ蚊がいなくなってくれれば一安心。

上にも書いたとおり、人から人には感染しませんし、蚊から蚊へも感染しませんので、最初の一人を刺した蚊が複数いたとするとこれらの蚊をすべて駆除するか、一ヶ月後に死に絶えるのを待つしかありません。

海外渡航者が帰国後にデング熱を発症するケースは年々増えていて、今年もすでに90例近い感染が報告されています。

 

今後の見通し

一匹の蚊は一ヶ月ほど活動しますので、最初の患者さんが刺された時から一ヶ月は同じ蚊がさらに感染を広げる事もあり得ます。(というか、そうやって今回患者さんが増えているのかも。)

また二次的に感染した人の血をすった蚊がさらに感染力を持つことも考えられますので、発症している患者さんが蚊に刺されないよう充分に注しなければなりません。

今回発症した患者さんが発症後に蚊に刺されていなければその周りで広まるということはありません。しかし逆に刺されていたとしたら周囲では警戒が必要になると思います。

蚊の感染力獲得に7日、その蚊が人を刺してその人が発症するまで3〜15日ですので、これまでの患者さんが発症してから10〜22日後に周りで新たに発症するケースがあったとしたら現在の患者さんの周りでも蚊を駆除する等の対策が必要になってくるかもしれません。

上でも書きましたが、秋になるとほとんどの蚊は死滅してしまい、産卵後に生まれた蚊はウイルスを持っていませんので冬を越して感染例が出続けることはないでしょう。

一方で、来年以降も海外から入ったウイルスが蚊を通じて広まる可能性はありますので、引き続き注意が必要だと思います。

 

Tomo’s Comment 

熱帯や途上国の病気というと、なんとなく怖いという思いを持つ人が多いかもしれません。しかし、多くの病気は昔は先進国にもあったものですし、まだ媒介する蚊もまだいることが多くあります。対策の徹底や、生活環境の変化(家に蚊が入らないとかどぶ川が減って感染源が減ったとか)、最近ではまた復活しているケースもありますし、もともとなかったとしても輸入されてくるケースも散見されます。

私がかつてアメリカのワシントンDCに済んでいたとき、ウェストナイル熱というこれも蚊が媒介する病気が問題となっていました。名前の通りナイル川流域を中心としてはやっていた病気だったのですが、今では全世界に広まりつつあります。当時、知り合いの奥さんもこの病気で亡くなりましたので、切実な問題でした。

日本でも、今回はデング熱ですが、マラリアを媒介する蚊もいますので、またマラリアが発生する危険性もゼロとは言えません。

しかし、今回のデング熱も、感染経路をよく見れば、今後全国規模に急速に拡大するとは思えませんし、死者が多発することもなさそうだということも分かります。感染症は目に見えない経路でやってきますので恐ろしい気はしますが、その実体をよく把握して、最低限気をつけることさえ抑えておけば感染を防ぐことは十分に可能です。

最近知り合いから、エボラ出血熱は大丈夫って聞かれるのですが、上記のようにその病気のことを充分に把握していれば、感染する確率は低くなりますので、今の所ガーナではエボラが流行し、かつ自分が感染のリスクがある状況にはありませんが、もしエボラの患者がガーナで発見されても、感染のルートを知り予防することは十分可能だと思います。

デング熱について補足の記事を書きました。

 

5 件のコメント

  • こんにちは。

    「デング熱」は命には別状はないようですが、突然高熱が出る病気なので
    かかると個人的には大変そうですね。
    札幌にお住まいの方も発症した、というニュースをみました。

    それと最後が「今の所ガーナではエボラが流行し、かつ自分がリスク」で
    終わっているので、このあとを読みたい、と思いました。

  • >みっちょんさん、
    こんにちは!
    少しずつ感染は増えているみたいですね。患者さんから二次的に広がらないといいのですが。

    最後のところ、切れてしまっていましたね。ネットの調子が悪いのか、ブログエディターからうまくアップロードされなかったのかもしれません。修正しておきました。

    エボラのこともいずれ書いてみようかと思っています。

  • 修正有り難うございました。

    頭の中はいつも19世紀モードなので、現実のニュースを見ると
    世界は狭くなったな、、と思います。
    飛行機だと一日で世界中とこでも行くことが出来ますものね。
    だから、感染症のニュースが気になるのだと思います。

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