【公衆衛生】デング熱って無症状の患者さんから感染できる?蚊から卵を通じてウイルスは伝わる?感染経路について二つの疑問。

 

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今回、デング熱のことを調べていて不思議に思いつつ調べてもよく分からなかった点が二つありました。

一つは無症状のデングウイルス感染者に感染力があるのか、ということです。

もう一つはヒトスジシマカは卵を通じて次世代にウイルスを引き継ぐことができるか、ということ。

少し調べてみたので書いておきたいと思います。

 

疑問点とその背景

今回の代々木公園での蚊による感染を見ていると、ウイルスを持った蚊がかなり多いのではないかと思いました。なぜなら、ヒトスジシマカは一度人間を刺すと次に刺すまで2〜3日かかるということですので、蚊の寿命が1ヶ月だとすると一匹の蚊が感染できる人間は10〜15人程度となると思われるからです。卵を産むために吸血するので、吸血から産卵までの時間が2〜3日必要ということですね。(ちなみに卵を産む雌のみ吸血します。)

ヒトスジシマカは2~3日おきに吸血し、集団で襲う。厚労省は、海外で感染し日本に入国した人を複数の蚊が刺し、感染が広がったとの見方を示した。(デング熱、なぜ急増 複数の蚊が媒介か

この集団で襲うということがポイントのようですね。

また不思議なのは一番最初にウイルスの感染源となった人のこと。前にも書きましたが、蚊がウイルスを得るには、血中にウイルスが広まった状態であるウイルス血症の人を刺さなければならず、このウイルス血症は発症前日から発症5日後までとされています。

血液中にウイルスが確認される期間は、発症日の前日から発症5日後までとされています。(厚生労働省デング熱に関するQ&A

しかし、発症した人が代々木公園に行って刺されるケースがどれほどあるのかという疑問があります。発症したら家か病院でおとなしくしているものなのではないでしょうか。

また別の可能性として考えられのが、無症状のデングウイルス保持者が刺されても蚊にデングウイルスが移るのかもしれないということ。

いくつかのサイトを見ましたが、厚生労働省の記載のように「発症前日から発症5日後」がウイルス血症としているケースと、発症しなくてもウイルス血症になっていて蚊が刺せば蚊に感染するというものもありました。どちらが正しいのでしょう。

また蚊の寿命は1ヶ月程度ですが、卵を通して次世代にウイルスが移ることがないのであれば、そして発症した患者さんが再び代々木公園で刺されない限りは、最初にウイルスを獲得した蚊の寿命である一ヶ月程度後には代々木公園発のデング熱は収束することが予想されます。(患者さん達が地元で発症して蚊に刺されるとその地域で広まる可能性はあります。)

最初の患者さんの発症が8月14日。蚊に刺されてから発症までは2〜15日とされていますが、調査によればこの患者さんは8月10日に代々木公園に行っているので蚊に刺されたのはこの時期と思われます。蚊がウイルスを持った人を刺してから、持ってない人を刺して感染させることができるまでが7日ということは、最初にウイルスを持った人がその蚊に刺されたのは逆算すると最も遅くて8月3日あたりとなります。二次的な感染がなければ(代々木公園周辺でデング熱を発症した人が蚊に刺されなければ)、9月3日前後にはこれらの蚊は死んでしまいますので(8月3日の時点で蚊の年齢にもよりますが、最も遅くまで生きていたとすると)、潜伏期の最大15日を足した9月18日(蚊が死ぬ間際の9月3日に刺したとして)に発症する人を最後に、代々木公園発の感染は収束すると予測されます。蚊の寿命については別に45日とする情報もありましたが、その場合は9月一杯くらいで収束となるでしょう。

ただし、収束するための重要な前提が「卵を通じたウイルスの移転がない」ということになるのです。

 

無症状のデングウイルス感染者の感染力

一つ目のの疑問である、最初に代々木公園の蚊がウイルスを獲得したのは発症した人(もしくは発症前日の人)だったのか、無症状の人だったのかということについて。

上記の厚生労働省のQ&Aでもこのような記載されています。

血液中にウイルスが確認される期間は、発症日の前日から発症5日後までとされています。

明確に発症と書かれています。

先日調べたサイトでも、「発症期の人が」との記載がありました。 

仮に流行地でウイルスに感染した発症期の人(日本人帰国者ないしは外国人旅行者)が国内で蚊にさされ、その蚊がたまたま他者を吸血した場合に、感染する可能性は低いながらもあり得ます。

 

今回の国内感染の発端として考えられるのは、海外で完成して、帰国後発症前日でまだ比較的元気な段階で代々木公園に行って複数の蚊に刺されたということ。あるいは代々木公園近くの病院に入院していたデング熱を発症した患者さんが複数の蚊に刺されたということ。ただ病院内で大量の蚊に刺されるという状況は考えにくいような気もします。(一匹の蚊は1回刺したらしばらく刺さないので。)

ちなみに8月に海外で感染して発症した人が東京でも何人かいたようです。

ここに感染症研究所が検査した輸入デング熱/出血熱症例数の表が載っていて、8月は26日までに東京だけで8件の輸入例があったようです。国内で感染したデング熱と同じ型(1型)だけでも2件、型が不明・検査中が3件あるようです。(ただし、このページ、かつて国立感染症研究所の公式ページだったそうですが今は違うようで、この同じ表は感染症研究所のウェブサイトでは2012年分までしか見つけられませんでした。)

 

報道は国内で感染した人が代々木公園に行ったかどうかは報道しますが、輸入ケースの人が感染期に代々木公園付近で蚊に刺されたかについてはまったく触れていません。

 

読売新聞にこのような記事が掲載されていました。(読売新聞 9月6日代々木から新宿・横浜へ…感染経路は?デング熱

厚生労働省や新宿区によると、男性は8月に仕事で新宿中央公園を訪れた際に蚊に刺されたとみられる。発熱や頭痛で医療機関を受診したところ、感染が確定した。ウイルスを保有した蚊が見つかった代々木公園には立ち寄っていなかった。
 同省によると、男性から検出されたウイルスの遺伝子配列が、代々木公園周辺を訪れていた複数の感染者と一致。同省では、代々木公園周辺で感染した人が、新宿中央公園に立ち寄って蚊に刺され、その蚊が埼玉の男性を刺して感染が広がった可能性があるという。

 この記事を読むと、代々木公園で感染した人が新宿中央公園に立ち寄って蚊に刺され、その蚊が感染を広めたということになります。しかし、この代々木公園で感染した人がその日のうちに新宿中央公園に立ち寄って刺されたとしても、その人はウイルス血症にはなっていないはずです(潜伏期間は2日以上)。代々木公園で刺された人が、後日(発症してから公園に行くとも思えないので、発症前日でしょうか)に新宿中央公園に行って刺されたということなら分かります。そうでなければ厚生労働省も無症状患者、しかも蚊に刺されたばかりの人が感染すると認めることになってしまいます。

2010年のデングに関する論文を読んでみたところ、無症状の感染者からの蚊への感染については明確ではないとのこと。他の論文にあたれていないのですが、明確な答えはないのかもしれません。

ただ感覚的には、血中のウイルス量が蚊に感染するほど多く出ているということは、ウイルスと戦うため熱がある状態なのではないかという気もします。血中のウイルス量と症状、蚊への感染能力の関係によると思いますが、確率としては熱が出るほどウイルスが多ければそれだけ蚊への感染も高まるとは言えるのではないでしょうか。

 

次世代へのウイルスの移転

厚生労働省のサイトをはじめ、多くの専門家の方のコメントとして、ヒトスジシマカは成虫のまま越冬はできず10月半ばで姿を消す(卵で越冬する)ため、デング熱の流行は冬には収束するとしています。

蚊は冬を越えて生息できず、また卵を介してウイルスが次世代の蚊に伝わることも報告されたことがないため、限定された場所での一過性の感染と考えられます。

 表現の仕方としては、「卵を介したウイルスが次世代の蚊に伝わることも報告されたことがない」となっています。

しかし注意しなければならないのは、報告されたことがないのはたくさんの観察や実験の結果報告されていないのか、ただたんにこうした観察や実験が少ないからなのか、によって、大きく違うからです。前者であれば、「ほとんどない」と言えると思いますが、後者であれば「分からない」という事になります。

調べてみたところ、ある論文にこんな記載がありました。「Consequences of the Expanding Global Distribution of Aedes albopictus for Dengue Virus Transmission

The paucity of experimental data on the relative ability of Ae. albopictus and Ae. aegypti to transmit dengue viruses to their offspring, in addition to the potentially confounding effect of mosquito colonization history, prevent firm conclusions on the role on both mosquito species in vertical transmission of dengue viruses in nature.

簡単に訳してみると、「ネッタイシマカとヒトスジシマカが子孫にデングウイルスを伝える事ができる能力(の比較)についての実験が少ないことから、また蚊の居住経歴が交絡要因になりえることもあり、自然な状態において双方の蚊のデングウイルスの垂直感染(親から子への感染のこと)について結論づけることはできない。」ということだそうです。ただ実験室での実験では卵を通じた感染は少ないながらもあるようです。

2010年の論文なので、その後の研究によって何か分かっているかもしれませんが、関連する論文を見つけることができませんでした。

要すれば、卵を通じた感染の可能性はあまり高くなさそうだけれど、よくわからない、ということかと思います。

Tomo’s Comment 

論文検索にあまり時間がかけられなかったため、二つの疑問に明確な答えを得ることはできませんでした。

日本と違って、媒介蚊が卵で越冬する必要のない熱帯・亜熱帯では一年を通じてデング熱が存在しています。(波はありますが)

感染のサイクルとしては人間と蚊に限定されているわけですので、このサイクルが切れずに常に病気が蔓延しているということは、熱を出している患者さんが常にたくさんいて蚊に感染させて、その蚊がたくさんの人間にさしてウイルスを感染させているということになります。

もし発症前後の6日間だけ蚊に感染が可能で、蚊の寿命が一ヶ月ほどということであれば、よほどデング熱の発症者が多いか、蚊が多くてつねにたくさん刺されているかということになります。

逆に言えば、そこまで多くないのに常に病気があると言うことは、無症状な患者が蚊に感染させられるか蚊の中で子供にウイルスが移ることができるかという可能性も考える必要があると思います。

まだこうした論文の数は多くないようですが、時間があるときにもう少し検索を続けてみたいと思っています。

*少し補足情報を足した記事を作成しました。

14 件のコメント

  • 疑問に思っていたことが纏められていて良かったです。
    でも、まだまだ判らないことが多いようですね。
    「直近に海外も東京も訪れていない千葉市稲毛区の60代男性がデング熱に感染した」
    というニュースを昨日見たので、この問題は冬になって患者がいなくなっても注視して
    いきたい事案に感じています。

  • RT @Kontan_Bigcat: このデング熱のブログ、とても興味深い。一読推奨。 RT @sa_ku_ra_dark 「無症状の感染者から蚊への感染は明確ではない」「卵を介してウイルスが次世代の蚊に伝わる報告はない」「実験室では卵を通じた感染は少ないながらもある」 htt…

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