【公衆衛生】デング熱の患者が全国で116人へ。国が対応ガイドラインを改定。どうやら蚊に刺されないことしか対応の手立てはなさそう。

蚊帳付きのベッド(ミャンマー)

 

デング熱の患者さんが116人に増えました。無症状の感染者も含めるとさらに多くの人がデングウイルスに感染しているものと思われます。

感染症対策は先日も述べたように、宿主間のサイクルを断つことです。

デング熱で言えば、感染していない人は感染している蚊に刺されない、感染している人は感染していない蚊にさされて蚊にウイルスをうつさない、蚊の数そのものを少なくして刺されるリスクを減らす、といったところが対策となります。もちろんワクチンが完成すれば、蚊に刺されても発症せず感染もさせなくなりますので、ワクチンが最強の感染症対策と言えるでしょう。

そんなデング熱ですが、先日調べてみた卵を通じて次世代の蚊へのウイルスの伝達と、無症状の人からの感染について、新たに気になる記事を見つけましたので紹介します。

 

対策マニュアルの改訂

厚生労働省がデング熱対策の自治体向けマニュアルを改訂して通知したそうです。9月12日の改訂版はこちらとなります。


その改訂前の7月版はこちらで読むことができます。


 

両者に大きな違いは無く、改訂版は国内感染が発生した前提で書かれていること、蚊の調査・防除範囲が50メートルから100メートルになっていることが大きな変更でしょうか。

 この中で気になる記載がありました。

デングウイルスは不顕性感染が 50~70%であるとされているが、不顕性感染であってもウイルス血症が存在し感染源となる事例もある。また、東南アジアなどデング熱流行地からの観光客も増加しており、多少の発熱などの症状があっても、観光を続ける人もいた。実際にはデングウイルス感染源となりうるデング熱患者が把握されている報告数を上回って日本国内にいる可能性があり、国内にあっても基本的に蚊に刺されないように注意する必要がある。

不顕性感染というのは、ウイルスに感染したけれども発症しない人のことです。どのような場合にウイルス血症となるのか、その確率などについては詳しく書かれていませんが、リスクは存在するということです。

これがなぜ大きな問題かというと、症状が出てしまえばその人は屋外に出ることは体調的にも多くありませんので家の中で蚊に刺されないように注意することはできます。このことにより、ウイルス蚊の拡大が防げます。またヒトスジシマカは人家よりもヤブなどにいるので家で安静にしていれば刺されるリスクは減ります。

発症前日にもウイルス血症となり蚊にウイルスをうつすことはあるのですが、一日だけのことですのでまだリスクはまだ少ないのですが、上記マニュアルのように症状の出ない人は、自分がデングウイルスを持っているかどうか知らずに屋外で行動することになりますので、蚊に刺されてウイルスが拡大する確率は大きくなると言うことです。

どれほどの人が不顕性でウイルス血症となるのか分かりませんが、こうした人が多くなれば対策は難しくなります。

 

ウイルスの経卵伝達

 もう一つ、先日も書いたことですが、デング熱が蚊の卵を通じて次世代にウイルスを伝えるのかどうかと言うこと。

週刊朝日の記事だそうですが、このような書かれているそうです。(こちらのサイトから引用)

しかし、次世代の蚊に伝播した報告があるという。害虫防除技術研究所の白井良和氏だ。「ヒトスジシマカのウイルスが経卵伝達されることは論文で報告されています。ウイルスを保有したヒトスジシマカからの経卵伝達があるとするRosenらの報告(1983年)や、マレーシア郊外でヒトスジシマカの経卵伝達が起こったとするLeeらの報告(2005年)、野外で採集したヒトスジシマカ幼虫にウイルスが検出され、自然条件下で経卵伝達が起こっていることを示したRohaniらの報告(07年)など数多くあります」
 経卵伝達(経卵感染とも)、つまり蚊が産んだ卵にウイルスが継承されれば、ウイルスが越冬することも可能というわけだ。
 帝京大学医学部名誉教授の栗原毅氏はこう語る。
「ヒトスジシマカは9、10月に産卵期を迎えますが、越冬すると思われるのは、9月下旬以降に生まれた卵で、孵化するのは翌年3、4月ごろとなるでしょう。経卵伝達が起きるかどうかは、来春になってみないとわからないわけですが、ウイルスが越冬する可能性は、日本では低いと思います」(週刊朝日 2014年9月19日号)

 

デング熱の対策は、人ー蚊ー人というサイクルである事を前提に行われています。これが蚊ー蚊のサイクルもあるのだとすると、対策もさらに複雑になると言うことです。具体的には人ー蚊の間のリンクを断つだけでは無く、蚊ー蚊のリンクも断たなければならない可能性も生じるということです。

ちなみにあげられている論文というのは次のものだと思います。Rohaniは2007年では無く1997年の間違い?

  • Transovarial transmission of dengue viruses by mosquitoes: Aedes albopictus and Aedes aegypti.Rosen L, Shroyer DA, Tesh RB, Freier JE, Lien JC
  • Research note : Does transovarial transmission of dengue virus occur in Malaysian Aedes aegypti and Aedes albopictus? HL Lee, I Mustafakamol, A Rohani
  • Detection of dengue virus from field Aedes aegypti and Aedes albopictus adults and larvae. R Ahmad, A Ismail, Z Saat, LH Lee

こらの論文をさらっとですが読んでみると卵を通じてウイルスが伝達したケースは確かにあるようです。ただし、日本の今回のケースは卵からすぐ孵化するのではなく、越冬するという条件の違いがありますので、実験や観察の結果がそのまま当てはまるわけではないと思います。

そういう意味ではまさに来春になってみないと分からないということですね。。

人と蚊のサイクルを切るためには、蚊に刺されないようにする対策が有効です。蚊を駆除しようとする対策もあるにはありますが、蚊を完全に駆除するのは困難ですし、やり過ぎると環境への影響も大きくなる可能性があります。

もしウイルスを持った卵からかえった成虫がいたとして、どれほど多くて、どれほどの感染力を持つことになるのか注目されます。

 

まとめ

不顕性患者からの感染、ウイルスの経卵伝達の二つがもし仮にそれなりの頻度で起こっているとすると、デング対策というのはますます蚊に刺されないということが重要になってきます。ワクチンが実用化されていない現在ではそれが唯一の対策とも言えそうです。

ただし、前回の記事でも今回引用した記事でも、両者のリスクというのははっきりとは分かっていません。もしリスクは低かったとしても、結局は蚊に刺されないということが重要なのは変わりません。

ウイルスに感染していない人が蚊に刺されないということも重要ですが、代々木公園を訪れた人や熱が出たという人は、自らが感染源とならないよう、きちんと検査するとともに蚊に刺されないことにより留意する必要があります。

 

Tomo’s Comment 

デング熱はなかなか収束しそうにありません。

しかし患者数は100人を超えたとはいえ、まだ爆発的に増えているとは言えない状況ですし、きちんとした治療さえすれば(特効薬は無く対症療法ですが)重症化することは少ないので、パニックになる必要はまったくありません。

今年は蚊に刺されないよう留意すると言うこと以外にありませんが、来年については輸入例の管理をさらに徹底するなどの手立てが必要かもしれません。

蚊を媒介する感染症は他にもマラリア、ウェストナイル熱、日本脳炎、黄熱病など多くあります。今回、デング熱の感染を通じて、蚊による感染症の広がりというものについて、よい警告となったようにも思います。これらの病気は途上国だけのものではないということを肝に銘じて、適切な対応をしていく必要がありそうです。

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1 個のコメント

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