【公衆衛生】ロンドン大学で「途上国の公衆衛生」修士を取って分かった10のこと

LSHTM

もう十数年途上国の公衆衛生のことに関わっています。

大学は文系だったので、関わり始めてから数年は基礎知識もないまま実務を通じてあれこれと学びました。周りの方にも恵まれ、深いところまで教えてもらえることも多く先生に恵まれていたと思います。

しかしやはり基本的な知識を体系的に学びたいと2006年にロンドン大学熱帯医学校で「途上国の公衆衛生」というコースをとることにしました。

留学中につけていた日誌はこちらから。

 

公衆衛生を勉強して分かったこと、気づいたことを10個、紹介していきたいと思います。

 

日本では公衆衛生についてあまり意識しないで生活している

日本はすでに先進国になっていますので、健康問題の質が途上国とは大きく異なっていることを改めて感じます。

まず基礎的な衛生環境が整っています。

蛇口をひねれば飲める水が出るというのは世界でも(先進国でも)あまりありません。

途上国の子供の死因の上位に下痢がありますが、これもきれいな水があればだいぶ軽減されるはずです。

途上国では基礎的なインフラがありませんので、疾病対策以前の水、電気そして道路などが公衆衛生上の大きな問題ですが、日本にいるとこのことを忘れてしまいます。

 

途上国と先進国とでは健康の問題の内容が違っている

昨年は日本でもデング熱の感染がニュースになっていましたが、こうした熱帯にある感染症が話題になることはあまり多くありません。でも多くの途上国ではデング熱は日常的な問題となっています。

日本の大きな問題は癌、脳血管障害、心臓病など生活習慣病と言われる病気です。一方で、途上国ではまだ妊産婦や乳幼児の死亡、マラリアや結核などの感染症が大きな問題となっています。従って人々の健康向上に対するアプローチが大きく違っています。

ただし、最近は途上国でも多くの国で生活習慣病も増えているため問題が多様化していることも対策を難しくしている現実も一方であります。

 

途上国がタイトルに含まれているコースはここだけ

多くの大学院で公衆衛生のコースがありますが、途上国に焦点を当て、コース名にももっているのはこのコースだけ(当時)だそうです。

 

触れ込みでは、授業で使われる事例が先進国の物ではなく途上国の物であるということでしたが、このコースだけの授業という物はほとんどなく、他のコースとの共通の物ばかりです。従って、特に必修ではなく選択授業では、必ずしも途上国のケースだけが取り上げられているわけではありませんでした。

とはいえ、授業のために読んでおかなければならない論文のほとんどは途上国でのリサーチであったりするので、看板に偽りはありません。

 

残念なことに、いずれコースの名称を変更するというお知らせが卒業性向けのMLでありました。Global Healthとかになってしまうのかな。

 

公衆衛生修士はもらえないのは少し残念

私のとったコースを終了するともらえるのは、Master of Scienceとなります。多くの公衆衛生大学院ではMaster of Public Health(MPH)がもらえるのと異なります。

タイトルより学んだことが重要、とはいえ、名刺などにMPHと書いておくと、この人は公衆衛生のことを知ってると言うことが示せるので便利と言えば便利です。

この辺の学位の違いについては、こちらのサイトに詳しく書かれています。(米国の事情が中心なので他の国では異なることもあります。)

この学位は元々は医学部を卒業した医師(米国では医学部が専門大学院となっているので医学博士 MD、Doctor of Medicine取得者)に対して更に公衆衛生学の知識や技術を教育するために考案されたものである。事実、例えばジョンズ・ホプキンスでの2001年度MPH授与者約220名の半数以上が医師の資格を持っている。

 

 

公衆衛生と医療は違う

上で、MPHはMDの延長という話をしつつ、共通性はあるものの、やはり別物だという話。

初めて途上国で公衆衛生関連の仕事をしたとき、日本人関係者の多くが医師・看護師だったこともあって、公衆衛生っていうのは医療関係者がやるものだと思っていました。

しかしアメリカに行って働いていた時、同僚に医師は多くなかったのです。

もちろん病気を扱うので医療分野の知識の多くが活用できとは言えるのですが、本質的には医療は個人の病気を扱うもので公衆衛生は集団の健康を扱うものであるのです。

アメリカとイギリスでは、公衆衛生は学部と独立していることが多いのですが、日本では医学部の中にあることが多いのもこうした特徴を現しています。(最近公衆衛生大学院も増えてきましたが。)

ということで、公衆衛生は医療とは別分野と言いたいところなのですが、実は途上国では保健省などで公衆衛生も扱っている人の多くが医師であるという現実もあります。MD(Medeical Doctor)じゃないと、なかなか話を聞いてもらえないという話も良く聞きました。最近はそんなことも多くはないと思いますが、やはりMDかそうでないかという壁はあると思います。

 

ちなみに、ロンドン大学で同じコースをとっていた欧米の学生の多くは医師ではなく、途上国からの留学生は医師の比率は高かったと記憶しています。

  

留学生が多くて楽しい

当時のコースは60名ほどの生徒が在籍していました。おおよそ3分の2が途上国からの留学生で残りは地元英国を含む先進国からの生徒でした。

先進国からの生徒も途上国での実務を3年以上という条件がついていましたので、みんな途上国での経験が豊かな人ばかり。

卒業性の話や教授の話でも何度か聞きましたが、学校で授業を受ける以上に同級生達の経験を聞くことがためになるとのこと。実際に毎週1回3人くらいの同級生が自分の経験をプレゼンするというコマもあり、とても興味深いプレゼンばかりだったのを思い出します。

人数が多すぎるので全員と深く知り合うという訳にはいきませんが、フィールドトリップも2回あったのでみな和気藹々としていました。未だにいろいろなところで出会ったり、たまにメールをしたりとつながりがあるのは貴重な財産だと思います。

 

基本は疫学と統計

授業が開始された学期は必修科目がメインでしたが、その中心は疫学と統計。改めて公衆衛生は理系だと実感しました。 

私の大学の学部は文系でした。これは高校の時に数学・代数幾何・微分積分・物理が苦手だったため。一方で、理系科目でも科学・確率統計は好きでした。統計の授業はあまり苦にならずむしろ面白いと思えたのはこのおかげかも。

 疫学と統計はその後の選択科目でも必須なので、1学期でみっちりと仕込まれます。これは科学的な物の考え方をする上でとても役立ったと思います。

 

公衆衛生の分野もさらに中で専門性は分かれていく

専門は?、と聞かれて公衆衛生と答えてはいるのですが、実は公衆衛生の中でも疫学もあれば保健政策もあれば保健経済もあります。

私自身は幅広く関わっていく予定だったことから、コアなテーマを決めず、まんべんなくいろいろな分野から選択科目を履修していました。一方で、友人達は自分の仕事に直結する分野をさらに深めるために、疫学なら疫学、衛生なら衛生と同系列の授業を固めて履修していました。

もちろん疫学なら疫学専門のコースもありますので、本当に疫学を専門にしたいならそちらのコースをとるという選択肢もあります。途上国の公衆衛生の中で疫学を特に強くしたいという人が上記のようなやり方だったのだと思います。

ITとか農業とか建築とかいろいろとある分野の中で、専門は公衆衛生ですというと納得感があると思います。保健・医療の世界で専門は公衆衛生というのももちろんありなのですが、さらにその中で強いのは何、と言えた方が良い場面も多いと思います。

外国で公衆衛生の仕事をしたくて留学するのであれば、さらにその中の何に強みを持ちたいのかまで考えて科目構成を考えるのが良いかと思います。私はいろいろなことに関わる可能性があるので、それに見合って幅広く取りましたが、必ずしもそういう状況ばかりでもないでしょうし。

 

授業のレベルは最初はどうかと思ったけど後から考えると十分高かった

欧米の大学院留学というと、少人数の議論を中心とした授業と修士論文というイメージがあるのですが、私の行っていたロンドン大学衛生・熱帯医学校は必ずしもそうしたイメージとは同じではありませんでした。

まず驚いたのが生徒の人数の多さ。コース自体ももともとは30人くらいを想定して作られていたそうですが、私が行っていたときは倍の60人が登録していました。たくさんのクラスメートと出会えるという意味では必ずしも悪くはなかったのですが、特に必修の授業の規模が大きすぎるとは思いました。

必修科目は我々のコースだけのものではなく、他のコースの必修にもなっていたりするので、下手すると100人くらいの生徒がいたりします。しかも当時は講堂が修理中で使えず、近隣の学校の教室やライブをやるようなホールを借りたりしてやっていて授業環境もあまり高くはなかったと思います。

授業は60分のレクチャーと90分の演習で構成されていたのですが、レクチャーの方はそんな感じで100人くらいに先生が一人か二人でパワポを使って話をして最後に質疑がちょっとあるという感じ。しかも教授と言うよりは研究室の若手研究者が授業を受け持つこともあって、話し方とかイマイチの先生もいました。

演習の方は人数は少なくなるのですが、それでもグループワークでも8人とか10人だったし、特に予習してない生徒もいたり、だけど特にそこで評価されるわけでもないし、ということで真剣さという面では期待していたほどではないこともありました。

授業が始まった当初は、特に仕事を休んで高い学費を払って来ている留学生でこうした状況にかなり不満を持っている人は多くいました。

しかしこうした状況も選択科目が始まる2,3学期に入るとだいぶ変わってきました。人数は少なくなるし議論も活発だったと思います。

そして、終わってみて改めて振り返って見ると、必修科目はその後の選択科目の基礎となる知識なのでかなり詰め込み感もありましたが、必要な過程だったのだと思えます。教材やプレゼンなども今見返してみても役に立つものばかり。今もたまに見返したりしています。

ということで、教育のレベルは高かったし、払ったお金にも見合っていたとも思います。(ポンド高で今よりも1.5倍くらい高かったのは置いておいて)

 

修士は入り口

留学する前は、修士を取ったらかなり専門性が深まるんだろうと期待していましたが、終わって見ると修士は入り口に過ぎなかったことが分かります。

特に1年で終わるコースは、各テーマともさらに研究するための基礎知識という感じ。もちろん研究者ではなく実務者にとってはそれで十分な側面もあるのですが、さらなる深淵があるということを実感してしまうと、まだまだだと感じさせられます。

ということで、学びに終わりはないということが実感できたのは収穫の一つだったと思います。ここから自分がどのような分野に進んでいくのか、どのようなことを学んでいくのかが固まっていた訳ではないのですが、どのように進むにしてもその基礎を身につけられたと感じています。

 

Tomo’s Comment 

ということで、ロンドン大学で留学して分かったことを10個あげてみましたが、いかがでしたでしょうか。

多様な人材が集まるコースでもあり、コースに来たときのその人の状況によって感じ方は千差万別だと思います。

しかし、同級生の誰に聞いてもこのコースに来て良かったと言っていました。

ロンドン大学に留学を考えている人、途上国で公衆衛生活動に従事してみたい人に、多少なりとも参考になればと思います。

 

 

 

 

 

 

3 件のコメント

  • 公衆衛生も素晴らしいですが、生活習慣病以上に鬱をはじめとする精神病の方が身近で大きく深刻な問題であると感じています。
    もちろんこれは主観的なものですが、精神衛生の観点からも考察していただけるとありがたいです。

  • コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です