【感染症】疫学の父ジョン・スノウが準主役で登場する物語「ブロード街の12日間」に感動

ブロード街の12日間

 

新型コロナウィルス感染症のパンデミックを受けて、感染症への関心が高まっている今日この頃。

感染症を扱いつつヒューマンドラマも織り交ぜて、とてもためになりそして感動できる本を読んだので紹介したいと思います。

 

物語の背景

こちらの本、フィクションでありながら、基本的には史実を元に書かれています。その史実というのが19世紀のロンドンのコレラの流行。

Wikiによれば下記の通り。

ブロード・ストリートのコレラの大発生(ブロード・ストリートのコレラのだいはっせい、Broad Street cholera outbreak)(あるいはゴールデン・スクウェアのコレラの大発生、Golden Square outbreak)は、1854年に、イギリスロンドンの中心部、シティ・オブ・ウェストミンスターのソーホー地区のブロード・ストリート(Broad Street)(現ブロードウィック・ストリート(Broadwick Street))近くで発生した、コレラの大発生である。616人の死者を出した。

当時、この大流行は、「瘴気」(“miasmata”)と呼ばれる空気中の粒子が原因とされていたが、ジョン・スノウは、細菌に汚染された水が原因であるとした。スノウの発見は、公衆衛生と19世紀半ばから始まった衛生施設の建設に影響を与えた。出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)

流行発生前後の12日間を描いた物語となります。

普通ならジョン・スノウを主人公にしそうなところ、あえて視点をロンドンで泥さらいで生計を立てている13歳の少年の目を通して描いています。この少年がジョン・スノウを手伝ってコレラ対策に奔走する話を軸に、彼の友人、家族の話が展開されていきます。

 

疫学の父ジョン・スノウ

ところで、ジョン・スノウって誰?という方もたくさんいると思います。

私もイギリスに行って詳しく知ったのですが、ジョン・スノウは疫学の父と呼ばれる人物。疫学とは、病気についての学問というのが最もわかりやすいでしょうか。

私がイギリスで公衆衛生を学んだときのことをこのブログにも書いているのですが、疫学の最初の授業についてこんな風に書いています

疫学というのは、健康を阻害する要因と健康被害の因果関係を数量的に説明する科学という風に理解しました。比較的歴史の浅い領域ということですが、その発祥は、18世紀のロンドンのコレラ流行の際の、医師John Snowの活動が起源となっているそうです。彼は、コレラが流行したときに、水が感染経路であるという仮説を立て、コレラ患者の住居を地図に落とし、ポンプの位置との因果関係を導き、汚染源となっているポンプを止めたことで、患者を減らすことに成功しました。

 

地図好きでもあるので、スノウがコレラ感染者の地図を作り、原因となる井戸との位置関係を明らかにし、コレラが水によって感染する病気であることを示したというエピソードにはぐっとくるものがありました。

 

ちなみに、イギリスには有名人をテーマにしたパブがたくさんあるのですが、やはりジョン・スノウパブというパブがあり、公衆衛生を学んでいた同級生たちとよく飲みに行ったりしていました。

ジョン・スノウパブ

 

主人公イール君の活躍

上でも書きましたが、主人公は13歳の少年。イール(うなぎ)という名前で呼ばれています。

両親が死去し、弟を学校に行かせるためにテムズ川の泥をあさり、ビール工場で働いている少年です。

コレラによる最初の死者が、イールの身近から発生するところから物語が動き出します。友達のお父さんが亡くなり、弟が亡くなりという状況から、コレラの魔の手がブロード街に迫ってくる様子が生々しく感じられます。

そんな中、助けを求めたのが実験動物の世話をする仕事をしていて知り合いだったジョン・スノウ博士。当初は患者を救うことを期待していたイールでしたが、スノウ博士は罹患者を救うよりもコレラの蔓延を食い止めることに重きを置いたのです。それでも、これ以上の患者が出ないよう博士を手伝って、患者さんが出た家を探し、それを地図に落とす作業をお手伝いすることになります。

イール君は架空の人物ですが、スノウ博士がコレラについて調査した内容は実際の調査法に基づいています。

当時、感染症は悪い空気により感染すると信じられており(マラリアも悪い空気という意味ですし、ペストも空気感染説がありました)、コレラも空気感染が疑われていました。そんな中、麻酔も研究していたスノウ博士は、空気ではなく水による感染ではないかと仮説を立て、それを実証したわけです。

結果としてブロード街の井戸が感染源であることを突き止め、そのハンドルをはずして水がくめないようにしたというエピソードが有名なのですが、そのシーンもこの本の中でもドラマチックに描かれています。

 

最後にはイールの生い立ちなども明らかになり、彼の将来にも明るい光が差すところで物語は終了します。

 

Tomo’s Comment 

史実の部分はネタバレしてもいいのですが、イール君の物語については、是非本書を読んでいただければと思います。泥さらいをしたり、濡れ衣を着せられたりと、苦難が続くのですが、最後は弟ともども未来に期待できる終わりとなっていて爽やかな気持ちになれると思います。

物語を通じて感染症対策についても自然に学ぶことができる貴重な本であると思いました。

 

フィクションの部分ですが、とても感動したところがありました。思わずツイートしてしまいました。

 

フローリーというのはイールのお友達で絵を描くのが上手な子です。この物語では地図を作るのを手伝ってくれたのがフローリーでした。いつまでも残るものを作るというのはなかなかできることではありませんが、自分が大学院の授業で真っ先に習ったジョン・スノウのコレラマップというのは、まさにいつまでも残るものを体現しています。物語ではありますが、授業で習うという自分の経験がリンクして、とても感動する体験となりました。

イールもしっかりして頑張る子なんですが、フローリーをはじめ、出てくる子供たちが、とても純粋で子供らしい子供たちなのもこんな感動を生んだ要因かもしれません。

 

ちなみにですが、ジョン・スノウの活躍については次のような本できちんと読むこともできます。

 

感染症についてはこんなエントリーもあります

【公衆衛生】デング熱関連エントリーのまとめ。

【今日の授業】疫学と統計

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