【ホームズゆかりの地】「バスカヴィル家の犬」に登場する「クーム・トレーシー(ボヴィ・トレーシー)」でティータイム

Bovey Tracey

クーム・トレーシー(ボヴィ・トレーシー) 訪問日:2007年9月6日

 

「バスカヴィル家の犬」の舞台となったダートムアに行ったことは、こちらで紹介しました。

 

上記のポストでも書いていますが、このときはダートムアを目的地にしていたわけではなく、大学院の授業がすべて終わった後に、同級生の故郷のデボン州に連れて行ってもらった時にたまたま寄れたということでした。

デボン州とダートムアの位置関係についてはまったく事前に意識してなかったのですが、同級生がデボンに向けて運転してくれているときに、どこか行きたいところある?って聞かれて、地図を見たらダートムアの地名が飛び込んできて、連れて行ってくれたという流れでした。

実際にダートムアに行けた嬉しさはすでに書きましたので割愛しますが、今回紹介したいのは、さらにたまたま立ち寄ったボヴィ・トレーシーという街のこと。

 

ここに行ったのはまったくの偶然だったのですが、地名に聞き覚えがある???、と思っていたら、クーム・トレーシーという名前で「バスカヴィル家の犬」に登場していた町でした。

 

クームトレーシーの登場シーン

では、クーム・トレーシーに言及しているシーンを見ていきたいと思います。

「バスカヴィル家の犬」(延原訳)登場シーンはこちらです。

 

「先代さまはあの朝お手紙をお受けとりになりました。あの通りご交際がおひろいうえに、ご親切なかたでございましたから、何かごたごたがありますと、みんなで 先代さまへ持ちこんでまいります。ですから、ふだんお手紙はたくさん参りましたけれども、あの朝にかぎりましてなぜか一通しかございませんでした。それで 珍しいと思いましたので覚えておりますのですが、クーム・トレーシーの消印のございます女文字の手紙でございました」(執事のバリモアの証言。)

 

(中略)「あっ、ローラ・ライオンズがいますよ。これなら頭文字が L.L. ですね。しかし住んでいるのはクーム・トレーシーですよ」(ワトソンからL・Lについて聞かれたモーティマー医師の答え。)

 

(中略)「明朝さっそくクーム・トレーシーへ出かけるのだ。そしてローラ・ライオンズ夫人といういかがわしい評判のある女に会ったら、このわからないことだらけの事件に、一新生面をひらくことができるに違いない。」(上を聞いたワトソンの日記の記述。)

 

(中略)「食物はどうして手にいれているのだろうね」
「セルデンの申しますには、少年をひとり連れていまして、その少年がなんでも必要な品を運んできますのだそうで、たぶんクーム・トレーシーあたりから持ってまいりますのでございましょう」(ワトソン博士がバリモアに湿原にいるもう一人の謎の人物について聞いているシーン。)

 

(中略)前日、私が二つの重大事件にでくわしたことはすでに述べた。一つはクーム・トレーシーのローラ・ライオンズ夫人から故チャールズ卿に手紙をおくって指定した
時と場所とが、故人の最期をとげた時と場所とにぴたりと一致していることであって、もう一つは、沼沢地の石室にひそんで、そのへんを徘徊している怪しい人物のあることだ。(ワトソンの回想)

 

さて、十月十七日の晩、すなわち昨夜だが、私はローラ・ライオンズ夫人のことを聞き知ったけれども、その晩はモーティマー
君がおそくまでカードをたたかわしていたので、そのことをヘンリー卿の耳にいれる機会がなかった。だが朝食のとき私はその話をして、いっしょにクーム・トレーシーへいってみないかとさそってみた。すると卿ははじめはだいぶ乗り気であったが、考えてから一人でいったほうがよくはないかといいだし、私もなるほ
どと気がついた。(ワトソンの回想)

 

 

物語のキーパーソンの一人である、L・Lことローラ・ライオンズ夫人が住んでいたのがクーム・トレーシーで、ホームズが潜んでいた岩山に、食べ物を買って届けることができる位置にあった町がクーム・トレーシーだったことが分かります。

ワトソン博士が、ヘンリー卿とモーティマー先生と一緒にダートムアに赴いた際についた駅が、おそらくバスカヴィル家に最寄りと思われますが、鉄道の時刻表から考えても、ボヴィ・トレーシーに到着したというのがあり得る路線だったという説がクリンガーさんの註釈の方には書かれていました。 

 

 

なぜ登場する名前と本当の名前が違うのか

ワトソンがなぜ、ボヴィ・トレーシーという町の名前をクーム・トレーシーにしたのか、手元の資料で調べてみました。

ホームズ作品に詳細な註釈をつけたベアリング・グールドの全集を見てみます。

 

彼がクーム・トレーシーにつけた註は、

湿原の東にボーヴェイ・トレーシーという町があり、この町がワトソンの言うクーム・トレーシーのことであろう。クーム・トレーシーは(Coombe Tracey)というのは、単純にウィディカム(Widecombe)とボーヴェイ・トレーシー(Bovey Tracey)をくっつけてこしらえたものであろう。(ちくま文庫「詳注版シャーロック・ホームズ全集5巻」P579)

となっています。

 

Widecombeというのはどこにあるのか調べてみると、下の地図のようにボヴィ・トレーシーから西へダートムアへ入ったところのようです。

 

ちなみに、ウィディカムの方は、ベアリング・グールドは別の註で、「モーティマー先生の本拠のあるグリンペンの村」の註に、

「地図を良くみると、ウィディカム・イン・ザ・ムーアという寒村があり、「グリンペンの村」とはこのことではないかと思われる。」(同P389)

と書いています。

 

 

異論もあります

トレーシーという部分が一致するので、クームトレーシー=ボヴィトレーシーという結論に陥りがちですが、異論を唱えている人もいます。

ベアリング・グールド以上の註釈付きホームズ全集をだしたレスリー・クリンガーさんの本に寄れば、Weller氏は、弱点はあるものの、Combe, Ashburton, Buckfastleigh, South Brent, Ivybridge, Newton Abbot, Totnesなどを挙げているそう。

本編で駅名は出ていませんが、上記のワトソン博士達が到着した駅についても、B. J. D. Walsh氏の「The Railways of Dartmoor in the Days of Sherlock Holmes」の論文では、その経路からボヴィ・トレーシー駅としている一方、同じく経路からTotnes駅としているのが、本ブログでも何度も登場しているバーナード・デイヴィス氏の「Railways and Road in the Hound」という論文。

そして日本語ではこちらの書籍ではブレント駅を有力候補としています。【乗り換えなしという前提なので、上記のWalsh氏とは違う前提ではあります。)

 

現在、駅がどうなってるのか、Google Mapで見ても、鉄道路線はありません。

駅がないと上記のクーム・トレーシー=ボヴィ・トレーシー説が覆ってしまいますので、Bradshawの1907年の鉄道路線図を見てみると、Boveyという字は見えるのですが、近くにはBovey Heathという町もあるようで、果たしてこれが当時のBovey Traceyの駅だったのかどうか、一見しただけではちょっと定かではありません。

Wikiで調べてみたところ、確かにこのBoveyの駅がBovey Traceyにあった駅だと言うことが分かりました。ちなみに路線はMoretonhampstead and South Devon Railwayで、終着駅だったようです。

ボヴィ駅舎は、現在はヘリテージセンターとして形をとどめているようです。

この前方左の建物が旧駅舎だと思います。

 

こちらの写真など見ると駅舎だったことがうかがえます。

看板にもOld Stationと書かれています。

 

ボヴィ・トレーシーに行った時のこと

実際に訪問したときは、上述の通り、友人の実家に遊びに行く途中たまたま寄ったというものでしたので、クーム・トレーシーにまつわる議論など全く知らないままの訪問となってしまいました。

2006年は、せっかくイギリスにいたのに、いろいろシャーロッキアンの世界を知らなさすぎて残念だったと思いますが、逆にあれをきっかけにより深く追求できるようになったのでまあ良かったのかも。いつかまた年単位でイギリスに住んでみたいと思っています。

ということで、単純にダートムア見物の前にお茶しに立ち寄ったボヴィ・トレーシー。

こちらがボヴィ・トレーシーの風景です。

Bovey Tracey

イギリスの田舎の町という感じ。落ち着いた感じです。

町の中は花が多く、小さな建物が多いこぢんまりとした町という印象です。

Bovey Tracey

 

この町からダートムアに行ったのですが、ここでデヴォン州の名物、デヴォン・クリーム・ティーをいただきました。

クリームティーといっても、ミルクティーのようなものではなく、スコーンにクロテッドクリームを塗って、紅茶と一緒にいただくというものでした。

devon cream tea

クロテッドクリームのうち、デヴォンで作られる物はデヴォンシャークリームと言うようで、友人にロンドンでも買えるか聞いたところ、滅多に買えないとのこと。

このときにはお土産として一つ購入してきました。

 

Tomo’s Comment 

もう十数年前の訪問記でしたが、振り返ってみてもやっぱりホームズに登場する場所に実際いくというのはなかなか感慨深いものがあります。

繰り返しになりますが、この頃はまだシャーロッキアンとしての知識が多くなかったので、せっかく実際に行っていても、やや掘り下げが足りなくて、見るべきものを見てませんでした。

こちらのカンタベリーの時もですね。

 

いつか、きちんと下準備して、「ホームズゆかりの地」巡りをしたいのですが、ダートムアはその候補の一つです。

以前紹介したこちらの本では、まさにそんな楽しげなダートムア旅が描かれています。


 

 

ホームズゆかりの地はこちらでも紹介中

【ホームズゆかりの地】「クラパムノース(Clapham North)」モースタン嬢とホームズ、ワトソンがショルトー邸への経路で通ったプライオリ通りとは?

【ホームズゆかりの地】「ハマースミス(Hammersmith)」六つのナポレオン事件の犯人逮捕の現場を探る。

【ホームズゆかりの地】「ハーロウ&ウィルドストーン(Harrow and Wealdstone)」 三破風館の所在地を探れ

スポンサードリンク

コメントはまだありません。

  • 1907年のブラッドショーの地図があるんですね。
    地理が苦手なので活用出来るかどうか判りませんが
    頼んでみます。
    クロテッドクリームをぬったスコーンの美味しそうなこと。

  • >みっちょんさま、こんばんは。
    実は私は1907年バージョンしかもっておらず、確かもう少し古い物があったと記憶していてこちらも見てみたいと思っていました。
    たしかにこの地図は州境などか書いてないので、だいたいの場所で探すしかないのがちょっとつかいずらいです。でも、鉄道だけで毛細血管のようになっているので、さらに地名などをいれる余地はないかもしれません。
    クロテッドクリームはさらっとして美味でした。

  • 綺麗な街ですね☆花が溢れているのが素敵です
    「クロテッドクリーム」聞いたことないです@@!
    イギリスへ行ったら「Afternoon Tea」ですネ♪

  • >Bettyさん、こんばんは
    英国の街はどこも花が多いのですが、ここは特に綺麗でした。こぢんまりした落ち着いた田舎町といった風情です。
    クロテッドクリームはバターとクリームの間くらいの堅さで、ふんわりして美味しかったですよ。
    アフターヌーンティーはかなりお腹いっぱいになるのでお昼抜きかつ夜も抜きになる可能性があります。

  • Betty へ返信する コメントをキャンセル

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

    このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください