ドラマ好きではない私でも記憶に残っているテレビドラマ、「半沢直樹」。
といっても放映時に日本にいなかったのでリアルタイムでは見られず、もっぱら小説の方で楽しんでいました。
小説もスピーディーかつ爽快な展開で、夢中で読み終えてしまったため、ドラマは見なくてもいいかと思っていました。だいたい原作のあるドラマで面白かった記憶がないのです。
しかし、その後ドラマを見る機会があったのですが、小説とはまた違う面白さがあって驚きました。原作のあるドラマで、しかも原作を先に読んでいたのにここまで楽しめたドラマはかつてなかったほど。
大人気になったのも納得です。
「銀翼のイカロス」
ドラマは池井戸潤さんの書いた半沢直樹シリーズの最初の2作品「オレたちバブル入行組」と「オレたち花のバブル組」を原作にしています。
その後、半沢直樹の出向先での話となる「ロスジェネの逆襲」が出版されています。
そして今回発売された「銀翼のイカロス」は半沢の銀行復帰後の話となります。
「ロスジェネの逆襲」では、半沢よりもロスジェネ世代の部下の存在感が大きかったのですが、「銀翼のイカロス」では再び半沢直樹が大暴れしてくれて読み応えがあります。
話はJALをモデルにしたと思える帝国航空を再建するという話なのですが、話の主体は帝国航空やその再建というよりは、再建案を巡る政治家の思惑との対決というところに重点が置かれていました。そうした意味では伊勢島ホテルの再建が中心だった「オレたち花のバブル組」より活躍の場がスケールアップしています。
ここで登場する政治家達、おそらく民主党政権がモデルだと思うのですが、前政権の否定にこだわり、かつ過度に国民感情を気にする集団として描かれています。そんな政治家達に半沢直樹がぶつかっていき、最後に倍返しを達成する、というのは民主党政権の苦々しさを経験した多くの国民にカタルシスを与えるんだと思います。
しかし、すでに安倍政権に変わってしばらくたってしまい、民主党政権も記憶の彼方になりつつあるため、単行本発売のタイミングがちょっと遅かったのはやや残念。
倍返し!
ドラマでも有名になった「やられたらやりかえす、倍返しだ」という決めぜりふ。本作でももちゃんと登場しています。
しかし、正確には「やられたら、倍返しだ」ですけどね。
倍返しだけが注目されるこの台詞、実は前段があるんです。
倍返しというと、激しい攻撃的な表現のような気がしますが、半沢は基本は性善説なんですね。
この本でもこのように言っています。
「オレは、基本は性善説だ。」半沢はいった。
「だが、悪意のある奴は徹底的にぶっ潰す」(p172)
小者も含めて、毎回ぶっ潰される奴がたくさんいるっていうのは、世の中、悪意がある奴がそれだけ多いっていうことなんでしょう。
この攻撃一辺倒ではなく、やられたときにはきちんとやり返す、というところが、主演の堺雅人さんの雰囲気にマッチしているところも、ドラマがヒットした理由かもしれません。
ドラマの影響
小説は、ストーリー展開が早くて一気に読んでしまいましたが、読みながらも頭の中では半沢直樹は堺雅人さんの演技と声で再生されてしまいましたし、中野渡頭取の台詞は北大路欣也さんの声で再生されます。
そして本作にもオネエ言葉の黒崎検査官が登場します。
しかし今回は前作までとは少し役どころが違っていて、半沢との関係にも変化があったのかもしれないと思わせるところがありました。もちろん黒崎検査官の台詞も片岡愛之助さんの声でリアルに頭の中で再生されたことは言うまでもありません。
読書体験として、イメージが俳優さんに固定されてしまうことがいいことなのか悪いことなのかは判断が付きかねますが、なんだか小説を読みながらドラマを見ている感じになりました。
そして、これで1クールのテレビドラマが作れる原作が2冊分たまったわけですが、ドラマ化は進むのでしょうか。
制作が難航しているとか、主役の交代(堺雅人さんから阿部寛さん?)があるとかという噂もあるようですが、是非前回と同じキャストでドラマ化してもらいたいものです。
原作ではその後の大和田常務は出てこないのですが、ドラマでは降格したものの銀行にはとどまっていますので、ドラマでどう扱われるのか見物ですね。
Tomo’s Comment Follow @tommasteroflife
数時間であっという間に読んでしまったのですが、期待通りの面白さでした。
読んでいて何が痛快なのかというと、やはり半沢直樹の仕事に対するスタンスなのだと思います。
本作でも半沢を知る先輩からこのように評されるシーンがありました。
「こいつは本当に生意気でなあ。上司だろうが、スジが通らないことは、きっちりかっきり論破してたもんな。とんでもねえ奴が銀行に入ってきやがったと、オレは密かに喜んでたんだ」(P247)
しかし、こうした姿勢も評価してくれる人がいないとなかなかできないものだと思います。現実とは違って、それができるところに痛快さを感じるわけです。
中野渡頭取もそうした意味では半沢を評価できる懐の深い人物なのだと思います。
帝国航空への債権放棄をせまられて銀行としての方針を半沢のチームが役員会に提出するのですが、政治的なプレッシャーもあるなかで半沢は債権放棄が正しいのかということを徹底的に検討して役員会に稟議をあげるというシーンがあります。
普通なら政治的なプレッシャーに負けて、波風を立てないような結論を出してしまうところなのでしょうが半沢はそうはしませんでした。
しかし中野渡頭取はこのように言っているのです。
「与信所管部が政治的バイアスがかかった結論を出しては状況を読み誤るもとだ」
確かに、現場が政治的バイアスをかけて提案をしてしまっては、政治を抜きに何が正しいのか理解されないままの議論となってしまいます。
ついつい上層部の方針に忖度して結論ありきで物事の方向性を決めてしまうと言うことはありがたいですが、結局それがいつも正しいわけはなく、実際の現場を知っている人間の判断を俎上に載せないことによる弊害も大きいと思います。
私も、この部分については仕事をする上でどんなに苦しくても見習っていきたいと思います。
コメントを残す