「コート・ドール」という有名なフレンチレストランのシェフ、斉須政雄さんの仕事論です。
フランスへ渡る経緯
内容は斉須さんのパーソナルヒストリーでもあり、仕事を通じて大事にしてきた考え方が中心となっています。
「底辺にいる人だけが雑用をやり、あとのみんなは遊んでいる」という日本のレストランにいた斉須さんは日本を離れたいという一念で、技術指導に来ていたフランス人シェフに頼み込んでフランスにいったそうです。
そのフランス人シェフが下働きだった斉須さんにチャンスをくれた理由というのが、
「手を洗おうとするといつも洗い場がきれいになっていた。マサオがいつもきれいにしてくれていたのを、わたしは見ていた。それがとてもうれしかったから、雇うことにした。」
ということだったそうです。
ちょっとしたことも当たり前にやることの大切さというものが分かるエピソードだと思いました。斉須さんも次のように書いています。
「ひとつひとつの工程を丁寧にクリアしていなければ、大切な料理を当たり前に作ることができない。大きなことだけをやろうとしていても、ひとつずつの行動が伴わないといけない。裾野が広がっていない山は高くない。」
心に響く言葉です。どの仕事にも通じることだと思いました。
フランスでの修行から得たこと
斉須さんはこうしてフランスに行くチャンスを得て、何軒かのレストランで修行を重ねていきます。
各お店での生活ぶりや学んだことが思い出とともに語られます。
オーナーのやり方、同僚とのつきあい、心がけていたこと、フランスという国のこと、日本人であること等々。
斉須さんの苦労や頑張りがこの一冊で分かるとは思いませんが、その一端だけでもこうして本で読むことで、仕事をする上で参考になることや自分のことを振り返って反省することが多くありました。
特に感銘を受けたところをあげてみようと思いましたが、たくさんありました。
- 値千金の言葉がどこにもかしこにみちりばめられている本に出会うと、僕は感激したフレーズを、頭の中で何回も何回も反芻します。牛が干し草を何度もかみ砕くように、反芻したあとには、必ず実践する・・・つまり実際の料理にするように試みています。知っただけで行わなければ自分で体得したことにはならないので、知ることと行うことを直結させたいと思っているのです。(P201)
- 結局、才能をどれだけ振りかざしてみても、あまり意味がないと思う。才能はそれを操縦する生き方があってのものですし、生きる姿勢が多くのものを産むからです。点を線にしていくような生き方といいますか。才能というものの一番のサポーターは、時間と生き方だと思う。(P205 )
- その時々のすばらしいメートル(恩師)と併走している時には、「案外、自分でも出来るのではないだろうか?」と思ってしまうものです。しかし、うまく併走することができているのは、隣にいる恩師が見えない微調整をしてくれているからに他ならないのです。(P224)
- 「一、至誠に悖るなかりしか。一、原稿に恥ずるなかりしか。一、気力に欠くるなかりしか。一、努力に憾みなかりしか。一、不精に亘るなかりしか。」これは調理場にかけてある言葉です。誠実か、言動に恥じることはないか。気力は満ちているか。努力は怠らなかったか。不精になってしまっていないか。(P243)
- 自信を持って突っ走っている人には、知らないうちに、「その人の能力を、実際以上に持ち上げる取り巻き」が、必ず、乗っかってくるんです。ぼくは、その状態に陥ることがとても怖かった。(中略)損か得かの人間関係をふくらませると、自分では降りられなくなってしまいます。(P276)
抜き出してしまうと人生訓のように聞こえますが、斉須さんの体験や料理に対する考え方と一緒に読むとより説得力が感じられます。
Tomo’s Comment Follow @tommasteroflife
働いていく上で指標となるような良い言葉にも会えましたし、料理人という職業についても知ることができました。
何よりも斉須さんの情熱がほとばしっていて、爽快な読書体験でした。おすすめの一冊です。
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