AIDSの授業の最初に見た映画を紹介したいと思います。
AIDSの授業は、終わってから振り返るとHIV/AIDSの持つ複数の側面、例えば医学的、公衆衛生的、ウイルス学的、薬学的、社会的、文化的etcが総合的に網羅されているよいモジュールだったと思います。それでも序盤はウイルス学的な内容が多かったため、基本知識がないと分かりずらいと感じましたし、ちょっと取っつきにくい側面があったのも事実です。
しかし、モジュールの最初の回でこの映画を見たことで、AIDSを総合的に学ばなくてはならないということを強く感じたことが、その後の授業へのモチベーションを高めてくれたと思います。
予備知識がなかったため、見る前は教育的な内容のつまらない映像資料かと思っていたのですが、映画の初頭からその予測は覆されました。
これはHIVがまだ発見されておらず、謎の病気として広まりを見せていた時期にHIVと取り組んだ若い医師の活動を描いた作品です。主人公の医師が、かつてエボラ出血熱の調査でアフリカに赴いた際に、謎の病気に対する無力感を実感したシーンから映画は始まります。
その後、舞台はアメリカに移り、本来死ぬことがないはずの病気の死亡例が発見され(HIVは免疫を低下させるため、HIVに感染しなければ免疫が働き発症しない病気が発症してしまいます。こうした病気が発症する状態がAIDSと呼ばれています。)、それが徐々に広まりつつある中、主人公の医師がこの対策チームに加わり、この病気の解明に挑んでいく様子がメインのストーリーとして展開していきます。
当初は原因となるウイルスも解明されていないため、なぜ病気になるのか、どうやって伝染していくのかも分かっていない文字通り謎の病気。ストーリーは謎の病気が報告された初期段階からHIVというウイルスが特定される場面まで、死亡者が日々増え続けていく中で手探りで挑んでいく様子が描かれます。この過程で同性愛や性感染といった文化的にデリケートなイシューを扱う難しさ、病原体の第一発見者となるための研究所間の競争、感染の恐怖におののく人々が織り込まれ、他の病気を扱うのとは違った難しさに直面していきます。
徐々に病原体や感染のメカニズムが解明されていく展開に惹きつけられますので、映画そのものとしての面白さも十分です。それにリチャード・ギアやスティーブ・マーティンがゲスト出演していて驚かされます。そしてさらに興味深かったのは、新しい感染症が広がりつつあるときにどのような調査を行い、どのような対策が可能なのか考え、それを実現するためには何が必要なのか、という公衆衛生を学ぶものにとっては、疾病対策の実践とも言える過程がリアルに描かれている点でした。この点でも、モジュールの最初に取り上げるのにふさわしい映画だったと思います。
1993年製作の映画ですので、HIVに関してもその後様々なことが解明されてきており、薬によって免疫の低下を押さえることもできるようになってきています。その点ではHIVに関する情報については途上までしか描かれていないのですが、エンターテイメントとリアリティを見事に両立させ、かつHIVという病気の初期の様子がよく分かるとても良い映画だと思います。
*残念なことは、日本のAmazonで発売しているものが北米のリージョンコードのDVDなので、日本の普通のDVDプレーヤーで見られないことです。
はじめまして。
この映画・・・というかテレビ映画ですが、
日本では残念ながらDVD化はされていません。
「運命の瞬間〜そしてエイズは蔓延した」というタイトルで、
実は10数年前にレーザーディスクでは発売されていました。
また、あわせてVHSもレンタルされていましたので、
大きめのビデオレンタル店に行くと在庫しているかもしれません。
私自身もこの作品でこのHIVの恐ろしさを思い知らされ、
とても印象に残っている一本です。
Jediokiさん、コメントとNiceありがとうございます。
日本のタイトルを教えていただきありがとうございます。日本のエイズ対策は遅れているところがありましたので、こうした作品はあえて発表されていなかったのかと思いましたが、レーザーディスク、VHSと発売されていたというのは嬉しく思います。私も、期待しないで見たからか、非常に印象に残りました。