シャーロック・ホームズの楽しみはたくさんあるのですが、その一つが後世の作家が作り上げたホームズの贋作(パスティーシュと呼ばれます)やパロディ。ちゃんとした定義があるんだと思いますが、私としては、前者はホームズの世界をできるだけ忠実に再現しようとした物で、後者はホームズにテーマを借りて独自の世界を作り出しているもの、といった感じかと思います。
今回読んだ「シャーロック・ホームズの秘密ファイル」は、前者に属するもので、しかも原作の再現具合はOne of the Bestと言えるできばえと言えるでしょう。
ホームズの秘密ファイルとは
ホームズの正典(オリジナルの短編・長編泡あせて60編)では、ワトソンが事件の名前だけ言及して内容については公表を控えていたり、未発表のままで終わってしまった事件が数多くあります。中には、「第二の汚点」のように後に公表された物もありますが、その大多数については魅力的な事件名のみが語られたままとなってしまっています。
この「秘密ファイル」では、まず未公表の事件簿をしまったワトソンのブリキ箱の発見の経緯が前書きで語られる形で始まり、ワトソンの筆による物かもしれないという期待を高めてくれる仕掛けとなっています。筆致もワトソンのそれの雰囲気が出ていますし、それぞれの事件のプロットもよくできているし、さらにワトソンがなぜこの事件記録が公表されないままとなっているかまできちんと描かれているのも本物らしさを醸し出しています。
これまでもいくつかのパスティーシュを紹介してきましたがほとんどが長編でした。(「恐怖の研究」、「魔犬の復讐」など。)長編も面白いのですが、やはり正典に短編集が多いことを考えると、パスティーシュの王道も短編集かなと思ってしまいます。その意味では、これまで読んだパスティーシュの中でも私としては今のところベストだと思いました。匹敵できそうなものといえば、ドイルの子息であるエイドリアン・コナンドイルとディクスン・カーがまとめた「シャーロック・ホームズの功績」ぐらいでしょうか。こちらも手元にあるので再読して比較してみようと思います。
Tomo’s Comment
ホームズの正典60編を読み終わってしまい、さらにホームズの事件が読みたいと言う人におすすめの一冊です。
本書には「クロニクル」と「ジャーナル」、「ドキュメント」という続編もあります。翻訳はまだされていませんが「Notebooks」というものも。
トラックバックありがとうございました。私のブログではあまり誉めていないのですが、どうか気を悪くしないでくださいね~!
ここでトムスン弁護といいますか、読む前に二つ失敗してしまったな、と思ったことがあります。一つは先にネタバレを読んでしまっていたことです(自爆)。そのときはパスティーシュはいっさい読まないつもりだったのでかまわないだろうと…。
もう一つは正典を創元推理文庫で読んでいた方がよかったのかなーと感じました。訳文の違和感のせいで正典らしく思えなかったところがあるかも。それに「秘密ファイル」には正典を引用したパロディ的な要素もふんだんにありそうなのですが、ジューン・トムスンの技がさりげなさすぎて気づけず、あまり「ニヤリ」とできなかったです。正典をいろいろな翻訳で読み込み、パスティーシュも読み慣れている人ならきっとコツをつかんでいるのでしょうが…。
>ぐうたらぅさん、コメントありがとうございます。
私の場合、正典により近い物が好きなので、変なホームズやワトソンが出てこないと言うだけでかなり甘い点数になってしまいます。訳による違いというのはあるかもしれないですね。私も延原訳と鮎川訳がメインなので、確かにちょっと文体が違うようなきもしないではないのですが、あまり気になりませんでした。短編なので、それぞれに出来不出来がありますが、それは正典も同じなので全般としては良くできてると思います。
ジューン・トムスンのさりげない技?
まだまだ『シャーロック・ホームズの秘密ファイル』の感想
の続きです。
Tomoさんの記事
にコメントさせていただいた
「ジューン・トムスンのさりげない技」について書こうと思います。
今までさんざんジューン・トムスンのことを
「淡々としている」と書いてきましたが