【パスティーシュ】ホームズの晩年を描いた「シャーロック・ホームズ最後の解決」

最後の解決

ホームズの事件簿はジョン・H・ワトソン博士が書いた(一部ホームズが書くなど例外ありますが)長編4,短編56の計60の作品がオリジナルとされており「正典」などと呼ばれています。

その正典にインスパイアーされて書かれた数多くの作家による作品が、パスティーシュと呼ばれています。

他にパロディと呼ばれる物もありますが、パスティーシュとの境は曖昧ではある物の、正典の世界観に沿ったものがパスティーシュ、茶化した要素がある物がパロディ、といった定義になりますでしょうか。私的には。

今回読んだ「シャーロック・ホームズ 最後の解決」は、パスティーシュに分類されるもので、ホームズ引退後の事件を描いた作品となります。

 

著者のマイケル・シェイボン

著者は「ユダヤ警官同盟」のマイケル・シェイボン、と帯にありました。

が、私が読むミステリーが非常に偏っている当方としては、読んだことがなかったのでどんな作風なのか想像がつきません。

読んでみると「正当にして典雅」という同じく帯にあった言葉度どおり、ともすれば正典よりもホームズの心理描写や一つ一つの動作が細やかに描かれています。

描かれているのが老境のホームズなので、肉体的な衰えが顕著なのですが、その自分の肉体が思うように動かない様子が精緻に描写されているため、自分の身体がうまく動かない感覚をまるで我が身のように共有できてしまうぐらい。

文学的、という言い方はあまり好きではありませんが、心理や感覚を共感できるぐらいに伝えられるということは文学の一つの重要な要素なのだと思いました。

 

ストーリー

ホームズが引退した後の事件と言えば、正典でも「ライオンのたてがみ」は、ワトソンがいないので、ホームズの一人称で語られています。

本作は三人称で描かれていますが、ホームズの内面についてもかなり詳細に語られています。

オウムを肩に乗せたユダヤ人の少年の苦境を年老いたホームズが助けるというのが大まかなストーリーなのですが、周りには変人的に扱われるホームズが少年にシンパシーを感じて、誰のためでもない少年のために彼の友達であるオウムを救うことに尽力する過程に往年のホームズの隠れた人間性がきちんと描かれています。

少年がナチスドイツの迫害を逃れてイギリスに来たという点、感情や言葉が外に出ないということ、周りの大人達の思惑や立ち位置など、それぞれ多様な悩みを抱える人々が描かれるのですが、ホームズだけは往年の孤高なポジションを維持しつつこれらの人々を観察しながらも冷静に謎を解いていきます。

 

引退後のホームズ

ホームズは1903年に探偵業を引退してサセックスに転居して養蜂にいそしむようになりました。

正典でも「ライオンのたてがみ」という作品が引退しているホームズがてがけた事件ですし、その後、政府の頼みで仕事に復帰した事件が、「最後の挨拶」。この2作品がベーカー街を引き払った後の正典の作品と言うことになりますが、パスティーシュまで広げるとさらにたくさんの姿が描かれています。

手元にあるだけでも、映画化もされた「ミスター・ホームズ 名探偵最後の事件」もありますし、「蜜の味」という作品も引退後のホームズの事件となります。

いずれの作品も、名探偵として切れ味が鋭かった頃と比べると、老いによりやや能力に陰りが見えている描写もあったりして、少し寂しい気持ちにさせられます。

そんな、少し人間くさくなったホームズの姿を描けるという点に魅力を感じて書かれたものなのかもしれません。

本作でも、人間は必ず老いる、しかし最後はホームズはホームズ、というシーンもあったりして、悲しさとうれしさがあいまった気持ちになりました。

 

Tomo’s Comment 

ホームズ引退後の事件ということで、上でも紹介した「蜜の味」も、まだ読みかけなので、読み終わったらこちらでも紹介したいと思います。

 

ホームズパスティーシュについてはこちらもご覧ください

【ホームズ】シャーロック・ホームズとエラリー・クイーンが切り裂きジャックの正体に挑む!パスティーシュの傑作「恐怖の研究」

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