【ホームズ】幻の原稿が発見された?探偵学について自ら語った「ホームズ探偵学序説」

ホームズ探偵学序説

日本シャーロック・ホームズ・クラブの大先輩、水野雅士さんのホームズ研究所の一冊です。

ホームズが書いた本が発見される

シャーロック・ホームズは、「緋色の研究」でワトソン博士と会ったときよりも以前に探偵としての技術を体系化していたことがうかがえます。

そんな彼の探偵学ですが、たばこの灰など個別に論文にまとめていたことはあったようですが、探偵学としては一冊にはなっていませんでした。現役の時は忙しすぎて書く余裕がなかったようです。そのことは「アベ農場」の中でも触れられていて、ワトソンとの会話でこんな風に語っています。

「いったい僕は君の物語の書きっぷりが気にいらないのだが、それをわずかに救っているのは君に一種の選択眼があるからだね。君のいちばん悪いくせは、物を見るのに科学的鍛練と考えずに、物語的な立場からすることだが、おかげで有益な、古典的とさえいえる実地教示ともなるべきところを、すっかり駄目にしている。センセーショナルな枝葉の問題にばかり拘泥して、肝心の要点をぼかしてしまうが、それじゃ読者を興奮させるだけのことで到底教訓にはならないね」

「それじゃなぜ自分で書かないんだ?」私はむっとしていってやった。

「書くよ。かならず書く。いまはご承知の忙しさだが、晩年にでもなったら、探偵学全般を一巻にまとめることに生涯をささげるよ。」

その探偵学の未発見原稿が手に入ったというのが本書の発端となります。

そのときの模様は次のようなものです。

訳者には、年に何回かは必ずイギリスへ出かける親しい友人がいて、ホームズ研究に関するナマの情報や資料の収集は、いつもその友人に頼っている。

先日その友人から電話で呼び出されて、東京・新宿駅南口の喫茶店へ出かけた。「昨日ロンドンから帰ったばかりなんだけど、今回はちょっと珍しいお土産だ。君ならおもしろがるかもしれないと思ってね。なに、まがいものだから、大して値が張るものじゃない。ロンドンの本屋で見つけたんだ。」

(中略)

訳者は最初の一枚に目を通して、わが目を疑った。なんと、あのシャーロック・ホームズの手になる、幻の「探偵学大全」の序説ではないか!(「ホームズ探偵学序説」訳者はしがきP010)

Cox銀行の地下に預けてあると言われるワトソン博士の未発表原稿が発見されたという話はパスティーシュの出だしとしてはよくあるのですが(例えばジューン・トムソンのシリーズなど)、ホームズ自身の原稿というのはあまり聞くことがありません。

ホームズの晩年といえば、サセックス州で養蜂業を営んでいたのですが、この本によれば「探偵学序説」は、引退後、第一次世界大戦直前にイギリスの危機を救うために探偵(というかスパイ)活動に復帰した「最後の挨拶」の事件よりもさらに後に書かれたようです。

訳者は、ホームズの筆による物かどうかは留保していますが、おそらくホームズが探偵学をまとめるとするとこうなっていただろうと思える内容となっています。

ホームズの探偵学とは

本書の中で、ホームズは自らの探偵学についてこのように語っています。

私は論理学の専門家ではないが、前節で触れたように、私の推理方法の体型は論理学が背景となっているので、ここで論理学のおもな考え方を、その発展段階に沿って、ごく大まかにたどりながら、それに対応した私の推理方法を明らかにさせていきたい。(P022)

このホームズの言葉通り、演繹法、帰納法、想像力と創造力の使い方など論理学を背景にしつつ、実際にホームズが手がけた事件にも触れながら、犯罪捜査、推理方法についての方法論が展開されています。

論理学の本はなかなか読みにくいのですが、こうしてホームズが手がけた事件が事例として用いられていれば頭にも入ってきやすいと思います。 ざっくりとしか知らなかった演繹、帰納などについてもわかりやすく理解できます。

序説ですので、さわりの部分だけとなっていますが、完全な原稿はどんなだったんだろうと想像すると楽しいですね。ホームズは犯罪捜査に関わる論文をたくさん書いていますので、そうしたエッセンスも加えられて、推理と捜査法を幅広く網羅した、犯罪捜査のバイブル的な物になっていたのではないでしょうか。

もちろん科学捜査の世界は日進月歩ですので、当時の方法論が通じないことも多いと思いますが、推理学については陳腐化しないのではないでしょうか。

Tomo’s Comment 

ホームズの推理の仕方については、ワトソン博士に種明かしをする時にその一端を知ることができます。しかし、それを一冊の本にまとめていたとすれば、是非読んでみたいとワクワクしますね。

本書でホームズの推理学・探偵学に興味を持たれたら、こんな本もおすすめなので紹介しておきます。

ホームズと科学捜査については、こちらがかなり詳しくなっています。

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