【シャーロック】雨傘を取りに行ったきりこの世から姿を消してしまったフィリモア氏の話

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昨日から書き始めたBBC「シャーロック」のシャーロッキアン的楽しみ講座。

第一作の冒頭のジョンのアフガンでの悪夢の話から、100年の時を経てジョンとワトソンに共通するアフガン体験について書いてみました。

ドラマではジョンがセラピーを受けているシーンが続きタイトルロールとなります。

 

3件の連続自殺

タイトルロールを経て描かれるのが、三軒連続して発生した自殺事件。自殺するシーンがその直前の場面も含めて描かれます。被害者はばらばらですが、使われた毒が同じと言うことで、レストレード警部が捜査に乗り出し、その記者会見のシーンへと移ります。

自殺の手法についてはまたいずれ詳しく書きたいと思うのですが、シャーロッキアン的に注目したいのは二件目の自殺事件。

雨の中、一人の若者がタクシーを止めようとするのですが、止まってもらえず、傘を持っている有人を置いて傘を取りに帰ってしまい、そのまま自殺をするというシーン。この亡くなった若者の名前は、レストレード警部とドノヴァンの記者会見によれば(そしてちらっと映し出された自殺を報じた新聞によれば)ジェームス・フィリモアといいます。

シャーロッキアンはここでピンときます。ああ、ジェームズ・フィリモアと傘か、と。

 

語られざる事件

原典のシャーロック・ホームズの作品の中には、事件の名前だけ語られて詳細は作品になることがなく終わった事件が数多くあります。「語られざる事件」などと呼ばれていますが、こうした作品の数は多くて、事件名だけ聞いても魅力的そうなものばかり。ワトソン博士が事件簿として書いてくれなかったことが恨まれますが、いくつかの事件については発表しなかった理由があったようです。

「シャーロック・ホームズの事件簿」という短編集に収められた「ソア橋」という事件の冒頭にこんな記述があります。

チャリング・クロスのコックス銀行の地下金庫のどこかに、元インド軍付、医学博士ジョン・H・ワトスンとふたにペンキで書きこんだ、旅行いたみのしたガタガタのブリキの文箱が保管されているはずである。この中には書類がぎっしり詰まっているが、その大半はシャーロック・ホームズ氏がいろんなことから捜査にあたった奇怪な事件を記録したものである。そのあるものは、面白いことに、まったく失敗だった。そういうものは、最後の解決がないのだから、まずお話にならない。解決のない問題というものは、研究者にとっては面白いかもしれないが、気楽に読もうという読者には退屈でしかなかろう。

 

シャーロッキアンにとってはこのブリキの箱は宝箱に等しい価値があります。あまりに読みたくて自分で語られざる事件を書いてしまう人も多くいて、パスティーシュの多くはこの箱に収められた事件であったりします。

以前にも紹介したジューン・トムソンによるパスティーシュ集は、このブリキの箱の中身を紹介したという設定で描かれていますね。(本物は失われて写しが残っていたという設定ですが。)

 

ジェームス・フィリモア氏の事件

というところで、フィリモア青年の話に戻るのですが、ちょうど上で引用した「ソア橋」の中に次のような語られざる事件があるのです。

これら未完成の事件の中には、自宅へ雨傘を取りにはいったきり、この世から姿を消してしまったジェームズ・フィリモア氏の話もある。

 

たったこの一行だけなのですが、なんとも興味をそそられる事件に聞こえます。実際、創作意欲を刺激する事件らしく、複数のパスティーシュで題材として取り上げられています。

私が把握しているだけでもエイドリアン・コナン・ドイルとディクスン・カーの書いた「シャーロック・ホームズの功績」とジューン・トムソンの書いた「シャーロック・ホームズの秘密ファイル」がありますし、漫画「シャーロッキアン!」でも取り上げられていました。

 

Tomo’s Comment 

いきなり語られざる事件を持ってくるあたり、シャーロッキアン心をくすぐられます。しかもジェームズ・フィリモアの雨傘の事件というツボをついた選択。このあたりに「シャーロック」の制作陣の原作へのリスペクトを感じてしまうのです。

 

ついでに、他の二つの自殺した(とされている)人物の名前も原作にゆかりがあるか調べてみました。Patterson氏とDavenport女史、同じ名前は登場しますが、今回の設定とはあまり関係がなさそうでした。

ちなみにPatterson氏は「最後の事件」で、ホームズがワトソン博士に残した書き置きに記された警部の名前でした。

パタースン警部につたえてくれたまえ、こんどの一味を断罪すべき証拠書類は、表に「モリアティ」とかいた青い封筒におさめて、書類戸棚のMの部にそろえてあるとね。

Davenportという名前は「ギリシア語通訳」の事件で、被害者の妹に関する情報を寄せてくれた人の名前でした。女性ではなく男性です。

――拝啓、本日付の新聞広告を拝見してお知らせしますが、お尋ねの若い婦人を私はよく知っております。拙宅までお出向きくだされば、同人の傷ましい身のうえは詳しく申しあげますが、同女は目下ベクナム区のマートルズ荘と申す家に住んでおります。敬具、J・ダヴンポート

むしろ、「緋色の研究」の二人の被害者、スタンガスンとドレッパーの名前にかけているように思えます。

ジョゼフ・スタンガスンとジェフリー・パタースン、イナック・ドレッパーとベス・ダベンポート。なんとなく語感はにているような気がしないでもありません。

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