「ピンク色の研究」より
(C)Colin Hutton(C)Hartswood Films 2010 John Rogers(C)Hartswood Films 2010
引き続きBBC「シャーロック」のシャーロッキアン的楽しみ講座です。
ジョンとスタンフォードの出会いとクライテリオンというキーワードについて前回は説明しました。
引き続き、ジョンとマイク・スタンフォードが公園のベンチで話しているシーンです。
軍の恩給
マイク・スタンフォードはジョンの元同僚として登場しました。今は病院で教えているそうです。
会話は続きます。
「ロンドンで療養を?」
「軍の恩給じゃ続かない」
「よそは嫌だろ、私の知るワトソンなら」
「昔の僕じゃない」
(中略)
「ルームシェアをすれば?」
「誰が僕なんかと」
「同じ事を言った男が」
「誰だい?」ここで分かるのはジョンのロンドンでの暮らしはちょっと苦しそうということ。軍を退役した(と思われる)ので恩給をもらっているのですが、どうもそれでは足りないことがうかがえます。
さて、一方の原作のワトソン博士はどのような状況だったのでしょう。
ワトソン博士もスタンフォードと次のような会話を交わしています。
「いまはなにしているんですか?」
「下宿をさがしているのさ。手頃な家賃で居心地のよい部屋がないものか、その大問題の解決をしようとしているところだ」やはり19世紀のワトソン博士も軍の支給額ではロンドンで暮らすには足りなかった様子です。
ちなみに、ワトソン博士は軍隊から療養を試みるため9ヶ月の休暇を与えられたようですので、この支給というのは恩給ではなく、有給療養休暇の給与にあたるのかもしれません。英語でも、ジョンが言っているのはArmy Pensionで、ワトソン博士のはIncomeとなっています。
金額についてはこう言っています。
いや、一日十一シリング六ペンスの支給額が許すかぎりの自由の身であったのだ。
ここで具体的な数字が出てきました。一日11シリング6ペンス。これは現代ではどれくらいの価値を持っているのでしょうか。
当時のお金の価値と現在のお金の価値は単純には比較できません。昔は高かった物が今は安かったり、物によって物価がまちまちですので比較が難しいのです。
しかしいろいろと試算を試みるのがシャーロッキアンなのです。
当時と現在のお金の価値の違い
多くのシャーロッキアンが試算をしています。
手元の文献では、例えば諸兄邦香さんの「シャーロック・ホームズ 大人の楽しみ方」という本の43ページに便利な貨幣換算表というものがあります。
これによれば(本が書かれた2006年当時)で、1シリングは1200円、1ペニー(ペンスの単数形)は100円くらいだそうです。
これをワトソン博士のもらってた恩給で換算すると、11シリング6ペンスは、13800円くらいということになります。
シャーロック・ホームズ作品に書かれている語句に註釈が付いている全集がいくつかあります。その最新の註釈付きホームズ全集を書いたのがレスリー・クリンガーさん。「緋色の研究」の当該箇所を見てみると、ちゃんと11シリング6ペンスに註釈が付いていました。この註によると、今日では45ドル程度の購買力とのこと。諸兄さんの試算とは半分弱の違いがあります。
これほど当時のお金を現在の価値に換算するのは難しいと言うことですね。
では、ワトソンが泊まっていたホテルはどのくらいの値段だったのでしょう。
ロンドンで私は初めしばらくのあいだ、ストランドのあるホテルに滞在して、つまらない無意義な生活をただ漫然とおくり、持っていた金をかなり不相応に使い荒していた。そのためふところ具合がひどく悪化した
手元に当時の旅行案内書(「Baedeker’s London and its Environs 1900」)がありますが、これによればロンドンのホテルの値段はだいたい一泊8シリングから20シリングくらいだったようです。上記の註釈にも書かれているのですが、例えばストランドの小さめのホテル(Arundel Hotel)は6シリングから。夕食が3シリングだそうです。
ホテルの値段から考えると、ワトソン博士は11シリング6ペンスのうち半分は宿代、そして昼と夜を食べるとほぼ無くなってしまう計算となります。ただ、ワトソン博士、友達と会ってバーに行ってしまうような性格なので、この金額では足りなかったと言うことなのでしょう。
ジョンの恩給
ジョンは負傷またはPTSDのために退役していると思われるのですが、どうやら銃による負傷は退役の理由にはならないようです。なんらかの傷病があったのかもしれません。
このへんのところは、こちらのサイトで詳しく述べられていました。
そしてこの同じサイトで、ジョンの恩給についての試算がなされていました。軍の恩給の計算システムがあるのですが、ここにジョンの経歴を入れて計算してみたそうです。(2004年に医学部卒業として計算。)
その結果、恩給としてジョンに支払われるのは£11436が一括で、さらに毎年£3812が支払われるようです。日本円にするとだいたい190万円が一括でもらえて、毎年39万円くらいもらえるということのよう。
ワトソン博士が毎日4500円〜13000円くらいもらっていたのに比べるとかなり少ない額だと思います。そして確かに、この額でロンドンで生活するのはかなり厳しそうです。
Tomo’s Comment
ジョンとワトソン博士の100年を超えた軍からの支給額を比較してみました。ワトソンは退役してないようですが、ジョンは退役しているように思えるので、この違いも支給額の差になっているのかもしれません。
参考文献はこちらとなります。
こちらは紹介した1900年のロンドンガイドではなく1911年のもの。
*本ページの画像引用はBBC制作のドラマ「Sherlock」シーズン1エピソード1の「ピンク色の研究」からとなっています。
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