子供の頃からのシャーロック・ホームズ好きが高じて、いまや日本とロンドンのホームズクラブ・協会に所属するほどのホームズ好き=ホームジアン(またはシャーロッキアン)としてあれこれと活動しています。
このブログの記事も、そんなわけでホームズネタが多くちりばめられています。そして本家のシャーロック・ホームズだけではなく、BBCが制作した現代版シャーロックも大好きであれこれ書いています。
従って検索などでもシャーロック関連のキーワードを検索して訪問してくれる方も多くいらっしゃいます。
そんな検索ワードで、最近気がついたのが「ユリイカ総特集シャーロック・ホームズ」というもの。結構な方がこのキーワードで訪問してくれているのです。
しかし、実はガーナにいたこともあって、ユリイカは未読。従って記事も書いてないのに何でかなと思ったら、Amazonの広告に同書が表示されているので検索に筆禍かかっているようでした。
せっかく来てくださったのにユリイカのことが書いてないと皆さんがっかりしてしまうだろうと思い、気に病んでいました。でもやっと日本に帰国して当該のユリイカを読むことができたので、やっとこちらでも紹介することができます。
なお、本記事中には原作の方も「SHERLOCK」のこともネタバレたくさんありますので、ご注意ください。
ユリイカ総特集シャーロック・ホームズの内容
読んでみたいと思っていた理由は、執筆陣の中にシャーロッキアン友達の方がいらっしゃったため。
ただ単に「Sherlock」関連の情報だけだったら買ってなかったと思います。ただ、目次や執筆陣を見ると、「コナン・ドイルから「SHERLOCKへ」というサブタイトル通り、オリジナルのホームズのことなども書かれていそうだったので期待していました。
全体から見ると「SHERLOCK」の記事の割合が多いですが、かなり深いところまで分析しているので楽しく読めました。原作のホームズの解説も多く、ドイルから「SHERLOCK」へ、というサブタイトルにも合致していると思います。
ただ、私的には両者をバランス良く取り上げている記事があればと期待していましたが、どちらか一方に重点を当てている記事も多かったです。
気になった記事
出演者・脚本家が語る「SHERLOCK」シーズン3
カンバーバッチさんなどの出演者へのインタビューについては、他でもたくさん読むことができるのと私自身出演者個人への興味はあまりないこともあり、普通に読んでしまいました。
モファット氏とゲイティス氏のインタビューについては、なかなか興味深かったですね。印象的だったのが過去のシリーズの登場人物(具体的にはアイリーンについて)の再登場について。
ただ私たちは「SHERLOCK」の世界を際限なく広げることには慎重ですが、決まり切った世界にするつもりもありません。
確かにいつも同じ面々ではつまらないですし、特に印象的な登場人物が何度も登場すると閉じた世界になってしまうというのは分かります。一方で、シーズン3の最後の場面ではあの人物が再登場していたりして、この辺のバランスは制作者としても気にしているようですね。
この文脈において気になるのがメアリの扱いです。もちろんシーズン4にも登場してくれることを期待していますが、原作のメアリのこと(「四つの署名」事件でワトソン博士と結婚後、何度か登場するエピソードはあるのですが、あるときに亡くなってしまい、ワトソンがベーカー街に戻ってくることになります。)を考えると、ちょっと悲しげな事にならないかと心配です。
もう一カ所気になったのがこちら。
ーでも第4シーズンか第5シーズンの頃には、原作に頼ることなく一からストーリーを考えなければならない状況になっているのではないでしょうか。
S うーん・・・ある程度はもう始まっていますよ。原作の成分というか要素を少しだけ残し、他はまったく新たに考えたエピソードもすでにありますしね。なにもオリジナルを一から考える責任があるとは考えていませんし、原作にもまだ使ったことも触れたこともないアイデアがいっぱい残っているのでそれらは活用したいと思っています。(P29-30)
一番最初のエピソードの「ピンク色の研究」が、原作の「緋色の研究」をかなりなぞっているストーリー展開だったのと比べると、他のエピソードは下敷きにしている事件はありつつ、個々のエピソードだけを使って全体のストーリーについては完全にオリジナルだったりします。
原作ファンとしては、できるだけ原作を思い起こさせてくれるストーリーを期待しつつ、それでは単に現代に置き換えただけというつまらなさもあります。今の所かなりバランスを保ってくれているように思いますが、段々とオリジナル要素も強くなっているのかもしれません。
完全オリジナルになってしまうと原作のファンとしては他のパスティーシュ小説などと変わらなくなってしまいます。「あ、これあの原作のあのシーンだな」とか「あの原作をうまく現代に置き換えたな」といったところが私にとって最大の楽しみなので、これまでのようなバランスを保ってシーズン4以降も制作してほしいところです。
「SHERLOCK」は本当にシャーロックを再生(リバース)させたのか
日本シャーロック・ホームズ・クラブの日暮さんの解説です。
ここで注目したのはこのくだり。
正典の映像化・戯曲化作品のほとんど(ほぼすべて)は正典のパロディ/パスティーシュである、と私は考えている。ごく少数、前述のグラナダ・テレビのシリーズなどは「翻案」であり、著作権法で言う二次的著作物であると言えるが、それ以外はみな、活字にしたらどうしてもパロディ/パスティーシュとしか読めないようなものだからだ。(P44)
これは自分の中で感じていたことをうまく言葉にしてもらえたと思いました。
私自身はホームズについては正典と呼ばれる原作の60作品がすべてで、パロディ/パスティーシュについては基本的にはまったく別物ととらえていて、興味のレベルは少し下がります。ホームズの研究を基にして世界観を忠実に再現しようとしたパスティーシュ、例えばジューン・トムソンさんのシリーズ、については、原作との整合性や人物・事件設定などを検証しながら読んで楽しむこともあります。原作と矛盾する設定があるとせっかくのストーリーも楽しめなくなってしまうというのが、パロディ/パスティーシュに興味が持てない主な理由です。
グラナダ「ホームズ」が自分にとって特別なのは、原作を忠実に再現しようとする努力を感じたからだったと思います。例えば、監督のMichael Coxは原作に登場するホームズとワトソンの外見や癖に関してまとめて、出演者達に原作らしさを出してもらうようにしていたそうです。
「SHERLOCK」のうまいところは、原作のホームズとワトソン博士を使って物語を進めるのではなく、二人を現代のロンドンに生きる人物として設定したところにあると思います。パスティーシュであれば、原作に登場したエピソードはすでに(原作で)使われているため、そのまま使うことはできません。しかし現代を舞台にすることにより、原作のエピソードをそのまま(現代にあてはめつつ)使えるところで、翻案とパスティーシュの中間的な位置を確立することができています。ホームジアンとしては、こうした元ネタ探しの楽しみもありますし、ジョンのアフガン帰りという設定のように、うまく原作と現代情勢がリンクしたエピソードの使い方には拍手を送りたくなります。
「SHERLOCK」または「ジョン・ワトソンの物語」
著者の鷲谷花さんは映画研究科の方です。映像作品を見ていても、ついストーリーや台詞に気が行ってしまうのですが、映像には映像の表現方法があるのだと言うことがこちらの記事から学ぶことができました。
シャーロックが観察したものの上に推理した結果が文字となって現れたり、車を追跡する道順を考えるシャーロックの頭の中の地図が表示されたりと、斬新な映像表現については一見して分かるのですが、それ以外にも映像にかなりの工夫が凝らされていたということを知ることができました。
ジョンは常にフレーム右端に寄った位置から、セラピストのいる右側に視線を向けており、左側に大きな空白のスペースのあるアンバランスな構図のシングルショットが続く。つまり、登場した瞬間から、ジョンは常にバランスを欠いた構図の中におかれ、空虚と隣り合い、向かい合い続けている人物として見せられる。(P63)
これだけではなく、シャーロックとジョンの出会いによる二人の、特にジョンの変化についての考察もなるほどと思わされるものでした。
人間に堕ちたシャーロック
こちらはシーズン1から3への変化について、なんとなく感じていたことを言語化してくれていてとても参考になりました。
趣旨としては「作中に埋め込まれた謎を解明する」探偵ものから、「国家の諜報部とともに近未来に起こりかねないテロ行為を未然に防ぐために暗躍する」スパイものに変化し、さらに「腹の探りあいのループの中で、仮初めの解決策=均衡点を打ち立てる「策謀」」を扱うセキュリティものへ変わるのかもしれない、ということを論説しています。
上述している翻案とパスティーシュの中間という感覚も、上の引用とも絡めて翻案から派生作品へ転換しつつあることが論じられていてなるほどと思いました。
論の展開、その根拠、そして背景に思いを至らせつつ「SHERLOCK」の変化が語られていて痛快です。
「SHERLOCK」の元ネタを探せ!
ブログ「21世紀探偵」のナツミさんの記事からの抜粋です。
21世紀探偵というサイトは最近知ったのですが、SHERLOCK関連サイトとしてはかなりの情報量を持ったサイトで、日本で一番かもしれないと思っています。
このブログでも『BBCドラマ「シャーロック」を見て原作のシャーロック・ホームズに興味を持った人のためのシャーロッキアン講座』なんてものを書いていますが、すでに「21世紀探偵」の方で徹底的になされていました。私の場合は、よりシャーロッキアン(研究)寄り、なので、原作の方の諸研究などを絡めてうまく独自性を出していきたいと思いつつ、二番煎じにならないように工夫していきたいと思っています。
ということで、あまり「21世紀探偵」やこちらの記事を読むと影響を受けそうなので、斜め読みだけにしておきました。
このあたりまでは「SHERLOCK」に関する論述が多いのですが、後半は原作のホームズに関する記事が多くなっていきます。
シャーロック・ホームズの食卓
とてもお世話になっているシャーロッキアン友人の関矢さんの記事です。この本を購入した理由の半分くらいを占めています。
ホームズと食に関する本は私の知っているだけで2冊ほど邦訳のあるものがありますが、先日出版された関矢さんの「シャーロック・ホームズと見る ヴィクトリア朝英国の食卓と生活」は他の本よりもホームズもしくはヴィクトリア朝の食の研究という意味では優れていると思います。
本稿もそんな研究の成果がぎゅっと凝縮されています。
ハイティーのハイが栄養が高いのハイだったり、カレー料理はサンデーローストの残りの肉がある月曜にでたりなど、学びが多いです、はい。
ホームズに登場する朝食メニューがまとまっているのも面白いです。現在と当時とで、トーストや卵を食べるところは似ていますが、当時は紅茶ではなくコーヒーをよく飲んでいたことが分かったり。(このへんは書き出すと長くなるので、いつか改めて触れてみたいと思います。)
「SHERLOCK」に関しては冒頭でシャーロックとマイクロフトのお茶を巡るやりとりから見る兄弟関係の考察があります。これもなるほどー、と思ったので、できればその他の「SHERLOCK」に登場する食卓風景とその解説ももう少しあったら面白かったかも、と思いました。
Tomo’s Comment
自分的に面白かった記事は上記のようなものですが、他にも面白い記事が満載です。
文学論的なものがあまり得意ではないため紹介していませんが、読んでみると面白いものもあったりするので、少し時間をかけて読んでみたいと思っています。
コメントを残す