シャーロック・ホームズが実際に活躍したと信じてあれやこれやとまじめに研究するのがホームジアン(あるいはシャーロッキアン)と呼ばれる人たちです。
研究領域の一つに、事件がいつ起こったのかを調べる年代学というものがあります。ワトソン博士の記述から事件発生日を推計するのですが、中には当時の天候記録まで調べて推計したりと微に行ったものもあります。
そんな年代学をつきつめていくと、ホームズの人生を伝記として構成しようという試みも現れます。
そんな伝記の一冊が、今日紹介するこの一冊となります。
著者は有名なシャーロッキアンのベアリング=グールド氏
著者はシャーロッキアンとしても有名で、事件順に並べ詳細な注釈をつけたホームズ全集も刊行したW・S・ベアリング=グールド氏です。
正典と呼ばれるホームズ作品60編の中では、ホームズの生い立ちや教育、引退後の生活などについての直接の記述は少なく、これらだけで伝記を構成することはできません。しかし、グールド氏は、当時までの研究成果や自身の説を元に、ホームズの人生を再構築し、本書に伝記としてまとめています。偉業と言わざるを得ません。
幼少期や晩年の記載は?
西欧の伝統に則り、伝記をはじめるにあたり、先祖3代までたどって描いています。正典でもホームズの祖母がフランス系の画家であることは述べられていますが、それ以上の情報はありません。グールド氏は、ホームズの父はヨークシャーで農場を営みつつ、ヨーロッパ各地を家族を連れて放浪した人物として描いています。また、ホームズにはマイクロフトだけではなくもう一人の兄もいたと言っています。
それなりの研究に基づいてはいると思われますが、ここまで思い切って書いてしまうというのはかなり気持ちよかったでしょうね。
ホームズの家族構成や生い立ちに加えて、グールド氏は、ホームズの大学問題、「最後の事件」後の空白期、ジャック・ザ・リパーとの絡み、引退後の生活などの部分で、正典に書かれていない部分を補いつつ、伝記を進めています。
切り裂きジャックの正体は、本書によると正典でもおなじみのある人物なのですが、これについてはここまでやってしまってよいのかと思いました。ただ本書の中では切り裂きジャック事件の解決に当たってワトソンが活躍するのは痛快です。
ジャックとホームズについては、他にもいくつか描かれている作品があります。
このブログでも紹介しています。
【ホームズ】シャーロック・ホームズとエラリー・クイーンが切り裂きジャックと対決「恐怖の研究」
【ホームズ】ホームズが切り裂きジャックに挑む!「ホワイトチャペルの恐怖」
【ホームズ】またまた切り裂きジャックものを読んでみました。賛否両論?「シャーロック・ホームズ対切り裂きジャック」
Tomo’s Comment Follow @tommasteroflife
正典に書かれていない部分を補うに当たって、ずいぶん大胆な仮説を盛り込んではいますが、全体としてはまとまったホームズ研究書の好著であると言えると思います。アイリーン・アドラーとの絡みなど、嫌いな人もいるかもしれませんが、それはそれで楽しめると思います。
正典で触れられている事件もほぼ発生順に網羅されていますし、シャーロッキアンとして、正典を読み終わった後の一冊として良い選択ではないかと思われます。
ホームズの伝記といえば、他には「ホームズとワトソン 友情の記録」というのもありますが、それぞれ特徴やアプローチが違っていますので、両方読んでみることをおすすめします。
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