【#月9でシャーロック】SAはモラン大佐?月9「シャーロック」第八話をシャーロッキアン的に見てみる

シャーロック アントールドストーリーズ第八話

岩田剛典、 ディーン・フジオカ、(C) フジテレビ (画像クリックで公式へ)

第9話の前に書いてしまいたかったのですが、いろいろ事情があり遅れてアップいたします。

全11話ということが分かり、そろそろ守谷に絡んだストーリーが展開していく予感がしていましたが、第八話でついに守谷グループのキーとなる人物との対決。

モリアーティの腹心、セバスチャン・モラン大佐にあたる安蘭世津子が登場です。

今回のモチーフとなった「語られざる事件」

今回のモチーフはすでに前回の予告編で登場していた「赤い蛭」がキーワードとなっています。

赤蛭事件というのは、「金縁の鼻眼鏡」で言及されていました。

前回に続き登場箇所の引用となります。

一八九四年の一年間に私たちのなしたる仕事を記録した、かさばった三冊の手記を手にとってみて、かくも豊富な材料のなかから、どの事件をえらびだせば、はたして読者諸君にもっとも興味があるだろうか、そしてまた、私の友のあの異常な才能をいちばんよく示しうるだろうかと、じつは私も少なからず困難を感じるのである。ページをくるに従って、私はまずあの忌わしい赤蛭の事件だの、銀行家クロスビーの惨死事件だのの記録を発見する。それからまたアドルトンの悲劇や、イギリス古代塚の奇怪な物語などもこのなかに記載されているのである。あの有名なスミス・モーティマーの相続事件もこの年のことである。ブールヴァールの刺客ユーレ追跡ならびに逮捕の顛末もまたしかりである。(「金縁の鼻眼鏡」(新潮文庫)より)

あまり詳細の分からない事件ですので、今回のストーリーがどのように展開されるのか、まったくヒントがありませんでした。

セバスチャン・モラン大佐

さて、今回は守谷グループに近づくためのキーとなるSAの正体が判明しました。

獅子雄が安蘭世津子に、どこかで見たことあると言っていますが、前世殺人の会で殺人を告白していた人物SAとして見たことがあるということだったようです。(私はあのビデオの人物と安蘭世津子との容貌があまりにも違うと思ったのですが。もう少し似ている人だったらよかったのに。金持ちになって整形したのでしょうか。)

そして、守谷グループの一員で、重要な役割を果たしていた。これは原作ではセバスチャン・モラン大佐の役どころと一致します。アランとモランも語感が近いです。(しかし、SMとしてくれていたらすぐに分かったのですが、SAとなっていて混乱しました。)

原作でのもラン大差はこんな人物です。

モリアティの親友でね、ライヘンバッハでがけのうえから岩を落してよこした奴だが、ロンドン中でも最も悪知恵にたけた怖るべき人物の一人だ。こいつが今晩僕のあとをつけて来たんだが、いまは反対にこっちがねらっているとは夢にも知っちゃいまい」

(中略)

「モーラン——セバスチァン。退役大佐。元ベンガル第一工兵隊。一八四〇年ロンドン生まれ。父は元ペルシャ駐在英国公使第三級バス勲章 従男爵オーガスタス・モーラン。イートン校及びオックスフォード大学に学ぶ。ジョワキ戦役。アフガン戦役に従軍。チャラシアブ(派遣)、シャープール、カブール等に勤務。著書に一八八一年版『西部ヒマラヤの猛獣狩』一八八四年版『ジャングルの三カ月』あり。住所、コンジット街。所属クラブ、英印クラブ、タンカヴィル・クラブ、バガテル・カード・クラブ」

余白にホームズのきちょうめんな字で「ロンドン第二の危険人物なり」と書きこんである。

モランが虎狩りを得意としていたように、安蘭世津子もライオンの死体の写真で獅子雄をおびきだしました。しかし、「空き家の冒険」と同様、逆にホームズにおびき出されしてやられてしまいました。

最後はあっけなく退場してしまった安蘭世津子でしたが、彼女が死んでしまった後、獅子雄がどのように守谷に迫っていくのか、今後の注目ですね。

暗号の解読

今回登場した「赤い蛭」、実は暗号を解く鍵になっていました。

予告編や公式でも事前に書かれていたように、ビジュネル暗号であることが明かされていました。

ホームズの原作では、暗号を解読する事件が複数あります。

最も有名なのは「踊る人形」事件。こちらは、様々な形の人形にアルファベットを当てはめたものでしたが、ホームズは同じポーズの人形の登場頻度から、アルファベットを当てはめて暗号を解読してきました。

その他、マスグレーブ家の儀式書では代々伝わる言葉から家宝のありかを探り、グロリアスコット号事件では二文字ごとに読むことで真の意味が分かるメッセージを解読しています。赤い輪ではろうそくの点滅回数からアルファベットを当てはめることで、信号の内容を理解しました。

今回のヴィジュネル暗号というのは、ホームズの原作には登場していませんが、Wikiによれば次のようなものです。

ヴィジュネル暗号(ヴィジュネルあんごう、Vigenère cipher)とは、フランスの外交官ブレーズ・ド・ヴィジュネルによる多表式の換字式暗号のことである。多表式の暗号は、単一換字式暗号が安全でなくなってきた15世紀後半から16世紀後半にかけて考え出された暗号で、ヴィジュネル暗号はその中で恐らく最も有名なものである。(Wikiより)

このヴィジュネル暗号、一群のアルファベットと対応する鍵となるアルファベットが必要になることを若宮君も指摘しています。獅子雄も、「鍵は普通暗号文と別ルートで受け渡す」と言っていますが、今回は「赤い蛭=akaihiru」の繰り返しがキーとなっていました。「繰り返し降ってくる」から繰り返すと。

この話から連想するのが「恐怖の谷」。

この事件では、冒頭、ポーロックという人物からのメッセージを解読するシーンから始まります。

ポーロックというのは以下のような人物。

「ポーロックは一種の雅号だよ。人定符号にすぎない。ご本尊は正体のはっきりしない、策略に富む男だ。前によこした手紙で、彼はあからさまに、これは本名ではないが、といってはたして何ものであるか、ロンドンにうようよしている幾百万の人のなかから、探しだせるものなら探してみろと、見えをきっている。

ポーロックそのものは何でもないけれど、何しろある大物と関連があるのでね。鱶の露はらいをする鰆というか、ライオンのまわりにいる豺というか、いずれにしても本人は取るにたりない人物ではあるけれど、その仲間には真に恐るべき人物が潜んでいるのだ。単に恐るべき人物とだけでは、要をつくしていない。悪逆な、極悪非道の人物なのだ。そこに根ざしているのだよ、このポーロックという男は。モリアティ教授のことは、君に話したっけね?」(「恐怖の谷」(新潮文庫)より)

(改めて気づいたのですが、ライオン=獅子というキーワードも登場していますね。)

ホームズはポーロックからのメッセージを受け取って若宮君の言っているとおりのことを言っています。

君がいくらお人よしでも、そのためにこそ人に好かれもするのだが、まさか暗号文にかぎを同封して送りはしまい。万一別人の手にでも渡ったら、たちまち解読されてしまうからね。それに反して、二つに分けておけば、二つともまちがって人の手に渡らないかぎり、害をうけるおそれはない。だからこの場合も、第二の手紙がくるのだ。その手紙に詳しい説明があるか、それとも、いやおそらくは、どの本をみろとかならず指定してあると思う」(「恐怖の谷」(新潮文庫)より)

結局ポーロックは事情が変わり鍵を送ることができなくなってしまいました。

若宮君と獅子雄のやりとりは、モリアーティも関与している「恐怖の谷」のこのやりとりが反映されていると言えるかと思います。

ホームズの兄、マイクロフト

「シャーロック」が開始されたとき、ホームズ=獅子雄、ワトソン=若宮、レストレード=江藤、グレグスン=小暮、ウィギンス?=レオというレギュラー陣が登場しましたが、その他に登場が期待されていたのが、ハドソン夫人とホームズの兄、マイクロフト。

しばらく登場してこなかったのでもうレギュラー陣はこれで終わりかと思いましたが、ここに来てマイクロフト=万亀雄が登場してきました。

マイクロフトは弟のシャーロックよりも推理力・観察力は鋭い人物とされていますが、自分で出した答えを現場で将校を集めて検証するということには興味が無いので、探偵にはなっていません。

では、マイクロフトは何をしていたのでしょうか。ホームズはこのように語っています。

兄が政府のもとで働いていると考えるのは当っている。だがある意味では、兄は政府そのものなんだといっても、まちがいではない」

「政府そのものだって?」

「驚くだろうと思った。マイクロフトは年俸四百五十ポンドの下級官吏に甘んじ、どんな意味でも野心なんか持たず、名誉も肩書きも望みはしないが、それでいて国家にとって欠くことのできない人物なのだ」

「ほう、どんなふうに?」

「そうさね、まずその地位が特異なものだ。自分で作りあげたものだが、前例もなければ、おそらく今後も踏襲する人は現われないだろう。頭がじつに整然としていて、事実を記憶する力にいたっては当代その右に出るものはない。同じ大きな能力を僕は犯罪の捜査に向けているが、兄はこの特殊な仕事に注いでいるのだ。(「ブルース・パティントン設計書」(新潮文庫)より)

今回登場した誉万亀雄。経産省の役人でおとり捜査を命じるなどかなりの地位にあることは想像されますが、容貌や弟に対する態度は原作のマイクロフトとは一致しない印象です。

マイクロフトの容姿についてはワトソンがこのように述べています。

マイクロフト・ホームズはシャーロックよりもずっと恰幅がよく、肥ってもいた。からだこそひどく肥っているものの、顔にはどこかシャーロック特有の鋭さが感じられた。遠くのほうをでも見ているような思索的なうす水いろの眼、これはシャーロックが仕事に全力を傾注している時にだけ見られる目つきである。(「ギリシア語通訳」(新潮文庫)より)

今回登場した万亀雄は、太ってはいませんでした。

弟との会話の感じも少し距離がある感じです。

総合すると、BBC「Sherlock」に登場するマイクロフトに近い気がします。ファッションも含めて。

さて、マイクロフトですが、行動範囲も非常に狭く、職場と家意外には家の目の前のディオゲネスクラブというところにしか顔を出しません。今回も兄弟の会話の場としてディオゲネスクラブが登場しましたが、原作ではどんなクラブだったのでしょう。

「兄の仲間うちではよく知られている」
「仲間とは?」
「たとえばディオゲネス・クラブなんかそうだね」
そんな名のクラブなんて聞いたこともない。その不審が顔いろに現われたのだろう、ホームズは時計を出してみて、
「ディオゲネス・クラブというのはロンドンでもいちばん風がわりなクラブなんだよ。マイクロフトはその風がわりな会員の一人さ。毎日五時十五分まえから八時二十分まえまではかならずそのクラブにいる。

(中略)

「どうもそんなクラブは聞き覚えがないね」
「それはそのはずだよ。内気とか人間ぎらいとかが原因で、人なかへ出たがらない連中が、ロンドンにはずいぶんいるからね。それかといって、坐り心地のいいいすや、新刊の雑誌類がまんざらきらいなわけではない。こういう人たちの便宜のためディオゲネス・クラブができたわけだが、いまではロンドン中の社交ぎらいの男たちを大半網羅している。クラブ員はおたがいにほかのクラブ員に絶対関心をもってはいけないし、外来者室以外では、どんな事情があっても談話することを許されない。もしこの禁を犯し、委員会の注意をうけること三度におよべば、話をした男は除名処分になる。兄はこのクラブの創立者の一人だが、実見して知っているけれど、なかなか感じのよい所だよ」(「ギリシア語通訳」(新潮文庫)より)

万亀雄の連れて行ったディオゲネスクラブも、おしゃべりは禁止なのは原作と同様でした。

そしてもう一つ。

最後のシーンで、若宮君が獅子雄に留守中にお兄さんが来たと言うことを告げると、獅子雄がとても驚いていました。詳しくは語りませんでしたが予想外の行動だったようです。

一方のマイクロフトも、上述のように家と職場、ディオゲネスクラブにしか行きません。そんなマイクロフトがベーカー街のホームズとワトソンの部屋に来たことにホームズはとても驚いていました。曰く、

 下宿の女中が電報をもってきたのだった。ホームズはすぐに封を切ってみて、たちまち笑いだした。

「おや、おや。何なのだろう? 兄のマイクロフトが来るというよ」

「かまわないじゃないか?」

「かまわないじゃないかって、それはまるで田舎みちで市電に会ったようなものなんだ。マイクロフトにはちゃんと軌道があって、それからはずれたことがない。ペルメルの家からディオゲネス・クラブ、それからホワイトホールの役所、これを循環するだけなんだ。一度、たった一度だけここへ来たことがある。どういう風の吹きまわしで脱線することになったのかな?」(「ブルース・パティントン設計書」(新潮文庫)より)

容姿や関係性以外は、かなり原作のマイクロフトに近い万亀雄になっているかと思います。

毒殺について

今回は経産省の内偵である柴田雅樹が毒殺され、それを知った三崎が後を追って自殺しました。

思い起こされるのはこちら。

「株式仲買人」では、弟の逮捕を知った兄が自殺を試みました。

そして、最後の場面、安蘭が獅子雄に二つのチョコレートのうち、一つを選ぶように仕向けるというやりとりがあります。

これは、「緋色の研究」で、ジェファーソン・ホープが長年の敵に体してとろうとしていた復讐の形に似ています。

私は元来薬の調合なんかわりに得意なほうですから、このアルカロイドをまぜて、水にとける小さな丸薬を作り、べつに毒を入れないで作ったおなじようなのと一つずつ、小さな箱に入れて持っていました。いよいよ時機が到来したときは、その箱をだして、二つに一つをまず相手に選ばせ、残ったほうを私がのむつもりでいたのです。この方法は、ハンカチに包んだピストルを射ちあったりするよりも恐ろしく、それでいて音もしません。(「緋色の研究」(新潮文庫)より)

原作でも十分に似た要素があるのですが、緊迫感のある獅子雄と安蘭のやりとりについては、BBC「Sherlock」の最初のエピソード「ピンク色の研究」の最後の場面の方がより似ている気がしました。この場を解決したのがワトソン=若宮君ではなかったのが少し残念でしたけど。

そして、安蘭世津子の最後に関しては、こんな見方も。

それから、ヴィジュネル暗号にも隠されていたビジネススクールの名前、サットン。

これも原作に登場する人物に由来すると思われます。それは、「入院患者」で自殺を図ったブレッシントンこと本名サットン。

寝室のドアを一歩はいった私は、いきなりそこに恐ろしい光景を発見した。私はブレッシントンの印象を述べて、だぶだぶに肥っているといっておいたが、いま天井からぶら下っているのを見れば、それがひどく目だって、まるで人間とは思えないくらいだった。首はまるで羽をむしった鶏のそれのようにのび、その関係でからだのほうは余計ふとって見え、不自然な対照をなしている。長い寝衣一枚きりだから、むくんだ踝や不様な脚がニュッとつき出ている。そばにはきびきびした警部がひとり、立って何やら手帳に書きこんでいた。(「入院患者」(新潮文庫)より)

三崎や安蘭と、自殺が多かった回でもあり、自殺場面の登場する「入院患者」から学校名をとんったのかもしれません。

次週への期待

次週はレストランでの事件のようです。

語られざる事件がなにか、予告からは分からないのですが、どうやら守谷グループとはあまり関係がなさそう。

Tomo’s Comment 

今週もあれこれ楽しませていただきました。

リアルタイムで見ていると、ドラマの本筋としてどうやって獅子雄が謎を解くのかということに集中しつつ、原作ネタがどこから来ているのか考えるという、かなり頭を悩ませる状況が続いています。

あらゆる詳細から手がかりを得ようと真剣にリアタイで見て、さらに何回か見直しています。

そんな中、若干残念だったのが、 今回の公式の事前ストーリー紹介で、「心中など現代には存在しないと関心を示さない獅子雄に、江藤は現場に残されていた二枚のライオンの写真を見せた。一枚は吠えていて、もう一枚は死んでいる。」と書かれているのですが、実際は、死んだライオンの写真のみ現場にあって、吠えているのは獅子雄がレオ君に頼んで安蘭に渡したメッセージでした。これによってだいぶニュアンスも変わってきますので、できれば正確な情報を提供してもらいたいところです。

そういえば、劇中で登場したレストラン、サバティーニですが、ちょうど数年前に食べに行ったことがありました。

【レストラン】青山の老舗有名イタリアン「サバティーニ」でローマ料理中心のコースを。ただ素晴らしかった・・・。

知っているところが登場すると、盛り上がってきますね。

前回までのまとめはこちら

新月9ドラマ「シャーロック」第一話をシャーロッキアン的に見てみる

アイリーン登場?新月9ドラマ「シャーロック」第二話もシャーロッキアン的に見てみる

早くも黒幕の影が!新月9ドラマ「シャーロック」第三話もシャーロッキアン的に見てみる

キーワードは失踪でなく橋?月9「シャーロック」第四話をシャーロッキアン的に見てみる

「マーゲートの婦人事件」がモチーフ。月9「シャーロック」第五話をシャーロッキアン的に見てみる

カナリア調教師ウイルソンが登場。月9「シャーロック」第六話をシャーロッキアン的に見てみる

スマトラの大ねずみ登場。月9「シャーロック」第七話をシャーロッキアン的に見てみる

当ブログではホームズについては次のようなカテゴリーであれこれ書いています

「ホームズゆかりの地」案内

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ホームズパスティーシュ

BBC “Sherlock”

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