ディーン・フジオカ (C) フジテレビ (画像クリックで公式へ)
さあ、いよいよ最終回の「シャーロック」。
1時間半の拡張版と言うことで、めまぐるしい展開が続き、最後には守谷も登場。とはいえ、それですべて解決したかという塗装でもなく、いろいろと謎が残ったままのラストとなりました。
Twitterでは、不満の声も多かったようですが、私はだいぶ前にこのようにつぶやいていたので、それほど不満のある最終回ではありませんでした。
いやもう獅子雄行方不明っていう結末で、翌日喪章をつけたファンが溢れかえり、フジテレビに復活の当投書が殺到し数年後に復活が決まるでもいいです。
シーズン2が明示されてなくても、完全終了な終わりではなく復活可能な余韻を持った終わりであることを祈るのみ。#月9でシャーロック#シャーロック https://t.co/42Gp6s80qI— Master of Life (@tommasteroflife)
最後に、特別編としてもう一回続くことも予告されましたが、総集編的な位置づけのようなので、今回の謎が回収されることはないように思います。
そうなると、シーズン2もしくは映画について告知があれば・・・、ぐらいで期待するのがよさそうですね。
と、ストーリーについて語るときりがないので、そちらは他の皆様におまかせし、こちらではホームズ原作との関係について検証していきたいと思います。
今回のモチーフとなった「語られざる事件」
今回はまったく予測がつかず、ストーリーの終盤まで分かりませんでした。
やや唐突に、サットンビジネススクール所有の船舶、「アリシア号」が出てきてやっと判明しました。
アリシア号というのは、コックス銀行に保管されているというワトソン博士のブリキの書類箱に入っている事件簿に収められた事件だそうです。ジェームズ・フィリモアの事件と同じ「ソア橋」において言及されています。
チャリング・クロスのコックス銀行の地下金庫のどこかに、元インド軍付、医学博士ジョン・H・ワトスンとふたにペンキで書きこんだ、旅行いたみのしたガタガタのブリキの文箱が保管されているはずである。この中には書類がぎっしり詰まっているが、その大半はシャーロック・ホームズ氏がいろんなことから捜査にあたった奇怪な事件を記録したものである。そのあるものは、面白いことに、まったく失敗だった。そういうものは、最後の解決がないのだから、まずお話にならない。解決のない問題というものは、研究者にとっては面白いかもしれないが、気楽に読もうという読者には退屈でしかなかろう。
これら未完成の事件の中には、自宅へ雨傘を取りにはいったきり、この世から姿を消してしまったジェームズ・フィリモア氏の話もある。また春のある朝、大したこともない霧の中へ帆走していったまま出てこなくなり、乗組員もろとも永久に消息をたってしまったアリシア号という小艇の不思議な事件もある。(「ソア橋」(新潮文庫)より)
霧の中に出ていったまま消息を絶ったというところは、今回の獅子雄のラストシーンにもつながる気がしていますが、それ以上にはストーリー中で使われてはいなかったように思います。
最後の事件
今回の事件が、最後の事件、かつ守谷=モリアーティとの対決になると言うことで、原作でのモリアーティが登場した「最後の事件」との関連について少し考えたいと思います。
ホームズがモリアーティと対決して行方不明になったのは、スイスのライヘンバッハの滝でした。今回、獅子雄と守谷の最後の対決がどこで行われるのか、注目していたのですが、名前としてのライヘンバッハは、先週のエピソードで「ライヘンバッハ学生寮」としてすげに登場してしまっていました。
この学生寮の屋上から落下するというのはあり得たかもしれませんが、そうなると行方不明という結末にもっていくには遺体の処理という難しい問題が発生します。
BBC制作の「Sherlock」では、セント・バーソロミュー病院の上から、シャーロックが落下しましたが、その遺体の扱いについてはさまざまな工夫がなされていました。
今回そのようにしてしまうと「Sherlock」以上の工作が必要となり、かつ兄の万亀雄がとらわれていたことを考えると難しかったと思います。
その意味では、滝ではないけれど海を使ったというのは妥当に感じました。せめて、場所的にもうすこしライヘンバッハ的な要素が付け加わってくれているとよかったのですが。
「最後の事件」との共通性を考えると、直前までワトソン博士とともにいたのを、あえて別れてモリアーティとの対決に向かったホームズと、今回の獅子雄の行動は合致していたと思います。最後の落下シーンに若宮君が間に合って目撃していたというところが原作とは違うところです。
ホームズの原作では、この「最後の事件」までモリアーティについてはまったく触れられておらず、突然読者に前に姿を現した形となります。一方、「シャーロック」では、守谷という名前だけは第三話から登場しており、その後も何度か関与が臭わされてきました。しかしながら、守谷という人間自体は最終回まで登場せず、その意味では原作と共通するところがあるかもしれません。
守谷の正体を巡っては、すでに登場していた誰かを推測する声も多くありましたが、原作に忠実という意味では、今回の結末はアリだと思います。(ただ、守谷が本当に守谷だったのかについては謎のまま残っていますので、さらなるどんでん返しがあるのかもしれません。)
原作だと、「最後の事件」が公開された1893年から、ホームズが帰還した「空き家の冒険」まで10年の間、ホームズが行方不明だったことになります。ちなみに、この間に、ホームズが失踪する前の事件という位置づけで「バスカヴィル家の犬」が公開されています。
次回の特別編でどのようになるのか予測がつかないところですが、個人的な希望としては、このまま失踪状態のままで終わり、来年のどこかでシーズン2開始が突然発表される、というのがいいなあと思っています。東京オリンピックも終わってますので、気分を変えて、万博が開かれる大阪を舞台に、などもいいかもしれません。
その前に、「バスカヴィル家の犬」的な位置づけで、映画というのもあってもいいかも。でも、獅子雄と若宮君が出会ってからのエピソードは今回リアルタイムで語られていたので、その間にあった事件というのは無理があるので、若宮君との出会い前の事件という形になってしまいますね。
その他原作からのエピソード
若宮君との出会い前の事件と言うことで、今回市川が獅子雄の過去を語ったときに、犯罪コンサルタントになったきっかけとして、香港で起きた「グロリア・スコット号」事件を挙げていました。
この「グロリア・スコット号」というのは、原作でもホームズがワトソン博士に会う前の事件として語られており、かつ、ホームズが探偵を一生の仕事にするきっかけとなったものでした。
ホームズがある日、グロリアスコット号事件で老人を死に導いた手紙についてワトソンに語ったところから、エピソードが開始されます。ワトソンは興味津々でこのように考えました。
「なんだか面白そうだね。君はいま、とくにこの事件は僕が研究してみる価値があるといったが、それはどうしてなのだい?」
「僕が初めて手がけた事件だからさ」
ホームズはいったいどういう動機から、犯罪捜査の方面に心をむけるようになったのか、それを聞きだしてやろうと、私はこれまで何度ということなく努めてみたのだが、いつでも憎めない冗談にまぎらされて、ついに成功したことがない。それがいま、ちゃんと自分のひじ掛けいすに坐って、ひざのうえに記録をひろげているのである。(「グロリア・スコット号」(新潮文庫)より)
この後、ホームズがワトソンに「グロリア・スコット号」について語って聞かせてくれました。ホームズがまだ学生時代の事件でしたが、ここでホームズに探偵業に導いたのがトリヴァ老人。ホームズの推理力を褒めて、このように言ったのでした。
ホームズ君はいったいどうしてこれまでになったのか知らないが、実在の人物でも架空の人物でも、今までの探偵なんかあんたの前へ出たら、子供のようなもんじゃ。あんたはこれからこれで身をたてなさるんじゃな。これは世のなかというものをいくらか知っとる者のいうことじゃから、信用しなさっても間違いはない』
僕の才能を誇張してほめちぎったうえ、こういってすすめてくれたトリヴァ老人の言葉が、じつは、それまで単なる道楽くらいにしか考えていなかった探偵の仕事の、職業として十分成立し得ることを覚ったそもそもの動機だったんだよ、ワトスン君。(「グロリア・スコット号」(新潮文庫)より)
獅子雄の香港での事件も若宮君に会う前ですし、香港での獅子雄の活躍を映画にしてもらうというのも楽しそうです。ディーン・フジオカさんも中国語に堪能なようですし(広東語はどうなんでしょう)、国際的な事件として日中合作とかでスケール感のある映画なんて楽しそう。
今回の事件で、市川が万亀雄と獅子雄の関係について語っていました。原作のホームズとマイクロフトは、異母兄弟だったということは語られていませんし、万亀雄のように弟に嫉妬するということはなく、むしろシャーロックの方がマイクロフトにはかなわないと言っていますので兄弟関係については原作とはやや違う設定となっているように感じます。
一方、万亀雄と獅子雄の年齢差について、7歳だったことが明らかになっています。これについては、マイクロフトとホームズ兄弟と同様でした。
この国にホームズ以外にこのような特異な技能をもった男がいるというのに、どうして今まで警察や世間に知れずにいたのだろう? これはホームズが謙遜して、兄弟のほうが自分より優れているといっているのだろうと思ったから、そう突っこんでみたが、ホームズは私の言葉を一笑に付して、
「ワトスン君、僕は謙遜を美徳の一つに数える人には同意できないね。論理家は、すべての物事をあるがままに見なければならない。自分の価値を法外にひくく見積るのは、自分の力を誇張するのとおなじに、はなはだ事実に即さない。だから僕がマイクロフトは僕よりも優れた観察力をもっているといったら、まったくのところそれが正真正銘の事実だと思ってくれていい」
「君の弟なのかい?」
「七つうえの兄だよ」
「名が知られていないのはどうしてなんだ?」
「兄の仲間うちではよく知られている」
「仲間とは?」
「たとえばディオゲネス・クラブなんかそうだね」(「ギリシャ語通訳」(新潮文庫)より)
今回もディオゲネスクラブが登場していました。談話室以外でおしゃべりしてはいけないというクラブですが、今回はその辺は省かれていましたが、若宮君も一緒だったというのは原作と同じでした。
その万亀雄ですが、今回守谷グループによりとらわれの身になってしまいましたが、ギリシャ語通訳でもギリシャ語を話す男がとらわれの身になっており、また一度通訳をしたメラス氏も、再度連れて行かれて瀕死の目に遭ってしまいました。
今回になってやっと家主のハドソン夫人にあたる人物が登場してきました。それが、波藤園美。
原作のハドソン夫人は、ベーカー街221Bのホームズとワトソンの部屋の家主で、ホームズのことを敬愛し、あるときは事件解決のために手助けもしていたほど。
「シャーロック」での波藤夫人は、家賃の取り立てに来るぐらいで、まだ獅子雄と親しくなっていませんでした。原作通りであるとすれば、今後、獅子雄のことを認めて捜査にも協力してくれることになるのかもしれません。(続編があればですが・・・)
その波藤夫人との会話の中で、獅子雄が家賃の代わりにバイオリンを処分すれば数千万になると言っていました。獅子雄いわく、父親がイタリアで手に入れたストラディヴァリウスのバイオリンなのだとか。
ストラディヴァリウスというのは、世界一有名と言っても過言ではないバイオリン制作者。彼の作ったバイオリンはそれこそ数億の値がつくものもあります。
実は原作のホームズもストラディヴァリウスのバイオリンを所有していました。父からもらったという獅子雄と同様、ホームズも大金をはたいて入手したというのではなく、安価に手に入れていました。
簡単な食事を愉快にすませたが、そのあいだホームズはヴァイオリンのことしか話さず、いまもっているストラディヴァリウスは少なくとも五百ギニーの値うちのものだが、それをトテナム・コート通りのユダヤ人の質屋でわずか五十五シリングで買ったいきさつを、大得意で語った。それから話がパガニーニのことになって、一本のクラレットを楽しみながら一時間も対座するうちに、彼はこの名ヴァイオリニストの逸話をつぎからつぎと聞かせてくれた。(「ボール箱」(新潮文庫)より)
次週への期待
今回が一応最終話ということで、次回は特別編。
獅子雄のことを知るために、これまでに関わりのあった人物達に再度会っていくという趣向のようです。
確かに、その後について気になる登場人物もいましたので、それはそれで楽しみ。
今回の謎をどうにかしてほしいという人も多いようですが、私は淡々と獅子雄に関わった人たちのその後を若宮君が知ることで、より二人の絆が深まってもらえばそれでいいという感じです。
最終回を終えた後に、安易に謎解きや伏線の回収をしてもらうよりは、謎は謎のまま残してもらうか、続編を臭わせてもらうだけで十分です。
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ということで、ネット上では否定的意見もあるようですが、私は今回の結末についてはシャーロッキアン的には大満足。
ヴィクトリア時代のストランド誌読者なんか急に出てきた犯罪界のナポレオンとともにホームズを滝壺に落とされたんだから誰それ度合いは段違い。そこを再現したかったんだ!
時間返せ!ディーン「シャーロック」のスッキリしない結末に視聴者の不満噴出 – アサジョ https://t.co/K8HKxUK2QB #アサジョ— Master of Life (@tommasteroflife)
もしこのまま終了だったとしても、この十一回すべてを思い返してみたら本当によいドラマを見させていただいたという感謝しかありません。もしもう1シーズンでも映画でも続いてくれたら言うことはありません。スタッフの皆様、ありがとうございました。
そして、主演のディーン・フジオカさんですが、「シャーロック」のサウンドトラックに入っていない主題歌を聴きたくてこちらも購入したんです。
当初は主題歌のShellyとSearching for a Gholsだけが聞きたかったのですが、それ以外の曲もかなり良くて、通して聞いているうちにもっとディーンさんの曲を聴きたくなってきました。
Twitterでつぶやいたところ、セカンドアルバムの評判が良かったので、こちらも購入。
そもそもこの月9でシャーロックの元ネタ解説記事も、「シャーロック」を見て、オリジナルのシャーロック・ホームズに関心を持ってもらいたいと思って始めたのですが、自分が「シャーロック」を通してディーン・フジオカさんにはまっていくとは思ってもみませんでした。
いろいろと関心を持っていくと、新たな世界が開けるものなんですね。
ディーンさんのファンの方も、『シャーロック」からシャーロッキアンになっていただけたら本望です。
前回までのまとめはこちら
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当ブログではホームズについては次のようなカテゴリーであれこれ書いています
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