【ホームズ】「ベイジル ねずみの国のシャーロック・ホームズ」は童話だけど本格的パスティーシュとしても楽しめる

Basilネズミの国のシャーロック・ホームズ

私が今住んでいる街には古本屋が2軒あります。

一軒は、駅に行く途中で比較的大きめのお店なので、ちょっとした暇があるとのぞいています。もう一軒は、駅から家に向かうのとは違うルートにあるため、休日の散歩中などに行くことが多いです。こちらは店の規模は小さいので、たまに行くのでちょうどいい感じ。

先日、お休みの日にこれらの古書店をまわっていたところ、一軒の方でこちらの本を発見。

あまりにも状態が良いので、即購入してしまいました。

 

なぜ新品のような綺麗さだったのか

ベイジルの日本語訳の出版は1978年で、しかもその頃刊行されたシリーズ4冊の中にはこの「ベイジル ネズミの国のシャーロック・ホームズ」というタイトルのものはありません。

手に取って確認したところ、奥付に「この作品は、あかね書房より1978年に初版刊行されたものを、翻訳を新たにして、復刊したものです」との注意書きが書かれていました。

私も当初翻訳の4冊は入手したいと思っているのですが、最初の2冊しか持っていません。

ベイジルシリーズ1,2

 

今回購入したのはシリーズの一作目の「ベイジルとふたご誘拐事件」の復刻版であることが分かりました。

読み比べてみると、翻訳もだいぶ変わっているようです。

 

こちらの復刻版は、童話館出版というところから出されていて、子ども文学 愛近江シリーズの二七番目の作品のようです。期待としては、ベイジルシリーズすべてを復刻してもらいたいところですが、同社のウェブサイトを確認したところ、この一作のみのようでした。

 

ベイジルシリーズについて

ベイジルシリーズは、イブ・タイタスさんによって書かれた、ホームズのパスティーシュ。主人公がベーカー街221Bの地下に住んでいて、ホームズを尊敬し、ホームズの部屋に行ってはホームズの謎解きを聞いて推理力を身につけたねずみというのが特徴です。名前のベイジルは、ホームズ役者のベイジル・ラズボーンからでしょうか。

今回購入した、このシリーズ第一作でも人間のホームズも登場するのですが、ベイジルがホームズとワトソン博士の会話を聞いているシーンのみとなります。そういう意味ではホームズ役のベイジルがいるにも関わらず本物のホームズも存在しているという構造のパスティーシュとなっています。ダブルホームズの趣ですが、これを人間でやるとどうしてもホームズそのものにはなりきれなかったり、ホームズと同時に存在するのが難しくなりますので、一方のホームズをネズミにしたというのは面白い発想だと思います。

 

タイタスさんは童話作家でありプロピアニスト、そして何よりシャーロッキアンでもありました。ただのシャーロッキアンではなく、世界的に有名な(メンバーになるのが難しい)Baker Street Irregularsのメンバーでもあったそうです。

それだけにこちらの本にも正典を思わせる記載が多々ちりばめられていて、子ども向けの本とは言え、シャーロッキアンが読んでも楽しめるものとなっています。

 

ベイジルのホームズ正典要素

具体的に、ホームズ正典のどんなところが反映されているのか、少し見ていきたいと思います。

まず、登場人物ですが、名探偵のベイジル、友人であり助手であるのが医師のドーソン博士。そして下宿のおかみさんがジャドソン夫人、と原作でもおなじみの面々の役どころをつとめるネズミが登場します。

『舞台はロンドン、ときは一八八五年・・・。」ということで、ホームズが活躍した場所と時代と一致しています。

脇道にそれますが、ベイジルがホームズの部屋にいて、ホームズがワトソン博士に謎解きを聞かせているのを聞いていたのですが、その事件というのが、「ロンドン警視庁(スコットランドヤード)を手玉にとった宝石泥棒事件を、いかにして解決したのか」というものだと書かれています。この頃発生した宝石がらみの事件というと「緑柱石の宝冠」時間かと思いますが、1885年に発生したとする説はなく、早くとも1886年発生の事件だったとされていて、またホームズの謎解きは依頼人の前でされていて、ワトソン博士にしていたわけではないので、やや合わなそうです。なにか他の語られざる宝石にまつわる事件があったのかもしれません。

 

舞台となる場所については、ホームズの下宿であるベーカー街221Bの地下室が彼らの住処となっています。なお、その地下室のねずみの街はホームズにちなんで、ホームズステッドと名付けられています。

趣味面でも、パイプをすったり、バイオリンを弾いたりとホームズと共通しています。(バイオリンは自作で、弦はホームズが捨てたものを再活用しています。)バイオリンについてはホームズが実際にパガニーニを弾いているシーンもあります。(正典ではパガニーニについては語っているだけで実際に弾いてはいませんが。)ただ、ベイジルのバイオリンの腕前は、ホームズほどではなかったようで、ドーソン博士が耳を塞ぐほどでした。

 

その他にも拡大鏡を使って地面を調べたり、土を顕微鏡で見たりとホームズの捜査手法を忠実に活用していることが分かる場面も多々登場します。

また変装が得意なことが示される場面もあり、ベイジルが老船長に変装しています。ホームズも船員に変装して捜査した事件がいくつかありました。

 

Tomo’s Comment 

ということで、最近入手した「ベイジル ねずみの国のシャーロック・ホームズ」をレビューしてみました。

子ども向けの童話ということを差し引いても、ホームズのパスティーシュとして充分楽しめるものでした。挿絵も豊富で、これも正典っぽい雰囲気があります。ねずみのベイジルがディアストーカーをかぶってインバネスコートを着ている様子など、とてもかわいらしく微笑ましいのですが、よく見ると意外とリアルなねずみの姿として書かれているので、凝視するとちょっと怖いかも。

手元には2冊しかないので、残る2冊をいずれ入手したいと思っていますが、価格が上がっていてなかなか手が出ていません。こまめに古本屋さんに通って見つけ出したいと思っています。

 

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