【ホームズ】ベアリング・グールドによる詳しい解説が施された注釈付きホームズ全集の元祖「The Annotated Sherlock Holmes」

The Annotated Sherlock Holmes

 

イギリス留学時代、ホームズ本を持って行かなかったことからこつこつと現地で買い足していました。

単にホームズ作品を読むだけではなく、時代の違いなどによりよくわからない言葉などもありますが、そのような登場する用語に注釈をつけてあるのが、注釈付きのホームズ全集。

その最新のものは以前紹介したレスリー・クリンガー氏のホームズ全集となります。

 

そんな注釈付きの元祖ともいえるのが有名なホームズ研究家であるW.S.ベアリング・グールド氏による注釈のついたシャーロック・ホームズ全集です。

原題は「The Annotated Sherlock Holmes」。

 

持っているバージョン

事前情報ではVol1とVol2があるはずだったのですが、到着した本は両者が一冊になったものでした。

 

百科事典ほどもある大きさでした。

The Annotated Sherlock Holmes

 

本を開いて確認してみると、一冊の中にVol 1とVol 2が入っている構成。

古い本らしく装丁もなかなか立派です。

ネットで探すとVol.1とVol.2に分かれたものはよく見かけるのですが、この合本版というのはいまいち見かけません。

こちらのAmazonで販売されているものが、2Vols. in Oneというものなので、こちらのカバーがないものなのかもしれません。

 

 

充実した解説と注釈

ホームズ全集に初めて注釈を付けたのがこちらのベアリング・グールド氏によるもの。

 

1967年に書かれたと言うことは今から40年前ですね。ホームズ研究家は数多くおりますが、このグールド氏は、この注釈付き全集(とホームズの伝記「ガス燈に浮かぶその生涯」もでしょうか)で一つの金字塔を打ち立てたと言えると思います。

もちろんこのあとも研究が続けられ、その成果がKlinger氏の新注釈付き全集に反映されているのですが、当時よくこれだけのものを作ったものだと感心します。

 

年代学に基づいた配置

注釈付きであると言うこと以外に特徴的なのは、グールド氏が特定した事件発生年に沿ってすべての短編・長編を再配置していることです。

従って、全集の最初をかざる作品は「緋色の研究」でもなく「ボヘミアの醜聞」でもなく、「グロリアスコット号」となり、「マスグレーブ家の儀式」へと続きます。(どちらもホームズがワトソンと出会う前の事件)

  

いくつかの作品をまとめて章立していますが、時系列に並べられていることから、初期のホームズの活動、ワトソンとの出逢いからワトソンの最初の結婚まで、ワトソンの最初の結婚から最初のワトソン夫人の死まで、といったように時期によって区切られています。(なお、グールド氏はワトソン3回結婚説にたっています。)

 

 

ベーカー街221B考察

「グロリアスコット号」が最初を飾ると言ったものの、厳密には「グロリアスコット号」の前に、ドイルの略歴、ホームズ作品の海外での翻訳史、パロディ史、ホームズを演じた役者、研究史、ホームズとワトソンの来歴、モリアーティ教授についての考察、ベーカー街221B考などが100ページにわたって述べられた前段があります。

 

その一章が「I have my eye on a suite in baker street」と題された221Bの場所および部屋の内部に関しての考察なのですが、ホームズに登場する場所を特定するホームズの地理学の基本である221Bのロケーションについての諸説を網羅した素晴らしい一遍となっています。

 

ホームズの地理学と言えば、私も生前にお会いできたバーナード・デイヴィスさんの研究をまず最初のよりどころとしているのですが、ベアリング・グールド氏が上記解説分の中で、他の諸説とともに詳しく紹介されています。(そして、グールド氏もデイヴィス氏説に賛同していることも書かれています。)

グールド版注釈付きホームズと言えば、中学生の時から古典中の古典と思っていたのですが、実は実際にお会いしたデイヴィスさんの説が収録されているというのは驚きでもありました。もちろん彼の論文「Back Yard of Baker Street(ベーカー街の裏庭)」が1959年のシャーロック・ホームズ・ジャーナルに掲載されていたのを考えれば、自明ではあるのですが。

 

なお、ベーカー街の裏庭については、翻訳されておりこちらで読むことが可能です。

 

Tomo’s Comment 

上でも古典と書きましたが、ホームズの研究書として、まっさきにそろえておきたい文献の一つと言えるでしょう。

英語版でなくとも、日本語にも翻訳されているのがありがたいところ。

文庫になると10巻になります。

 

ちなみに、このグールド氏によるものや上述のクリンガー氏のもの以外に、注釈付きで有名なものとして「オックスフォード版注釈付き全集」というのがあるのですが、実はまだ英語版については入手できておらず、その日本語訳である河出書房版全集についても、ちょっとずつ買いそろえてきておりすべてを持っているわけではありません。

 

オックスフォード版についてはシャーロッキアーナ的な解説ではなく、一文学としてのホームズの注釈と行った色合いが濃いのが特徴です。こちらについても、いずれ英語版・日本語版ともにコンプリートしておきたいところです。

 

ホームズ研究書はこちらでも紹介中

【ホームズ】レスリー・クリンガーさんによる注釈付シャーロック・ホームズ全集 「The New Annotated Sherlock Holmes」はホームジアンの基礎文献です。

【ホームズ】ホームズの尽きせぬ魅力が伝わる一冊。「シャーロック・ホームズを100倍楽しむ本」

【ホームズ】ホームズ地理学の大家バーナード・デイヴィスさんの”Holmes and Watson Country”を注文

スポンサードリンク