スイス・マイリンゲンのホームズ座像
趣味はいろいろとあるのですが、趣味歴の中で比較的長いのがシャーロック・ホームズの研究です。
ホームズの研究が趣味?という方もいるかと思いますが、欧米はもとより、日本でも古くからホームズ作品を愛好するのみならず研究してしまう人たちが多くいて、シャーロッキアンなどと呼ばれています。
シャーロッキアンとは
シャーロック・ホームズと言えば、世界で最も有名な私立探偵です。19世紀末から20世紀初めにロンドンを拠点に活躍し、相棒のワトソン博士が記した(一部ホームズが自ら書いたもの、第三者視点で書かれたものがありますが)ホームズの事件記録は60編に及びます。
シャーロッキアンの確固たる定義というのはないのですが、一番広くはそのホームズの事件を基にあれこれ楽しむ人たちと言えると思います。アイザック・アシモフ、フランクリン・ルーズベルトもシャーロッキアンだったそうです。ちなみに日本・アメリカではシャーロッキアンですが、イギリスではホームジアンと呼ばれています。
狭い意味でのシャーロッキアンは、ホームズが実在していた事を前提としてホームズ作品60編について研究する人たちと言えます。例えばホームズとワトソン博士が住んでいたベーカー街221Bは実際はどこにあったのか(今は221という番地がありますが、ホームズの時代はまだベーカー街が拡張されておらず221はありませんでした)、それぞれの事件はいつ発生したのか、ワトソン博士は何回結婚したのか、ホームズの出身校はオックスフォードかケンブリッジか、等々のテーマで様々に研究活動をしています。歴史は長く、ホームズ作品がイギリスのストランドという雑誌に連載されていた頃からあったのですでに100年以上の長きにわたって研究されていることになります。
探偵小説の研究というとお遊びのように思われますが、あたかも普通の学問であるかのようにまじめに研究するのがシャーロッキアンの楽しみとも言えます。例えば事件発生日が定かでない場合、作品中に天候が記載されていれば実際の気象記録を基に発生日を推測したりと、とことんまじめに取り組みます。そのとことんまじめに取り組むことを楽しむのがシャーロッキアンの醍醐味とも言えます。
シャーロッキアン団体
こうしたホームズ愛好家の団体が世界各地にあります。
有名なところでは、アメリカのベーカーストリートイレギュラーズという団体で、シャーロッキアンとしての実績のある人のみが参加可能です。本場イギリスではロンドンシャーロックホームズ協会があって、活動も活発です。
そして日本にももちろんホームズ愛好家団体があります。それが日本シャーロック・ホームズ・クラブ。ホームズ好きであれば誰でも参加でき、研究だのみならずホームズにまつわる様々な楽しみを追求しています。
私自身は、日本のシャーロック・ホームズ・クラブとイギリスのロンドン・シャーロック・ホームズ協会に参加しています。ロンドンに住んでいた一年にかなり夢中になって研究活動をしていたので、私自身は英国流に自称ホームジアンと紹介文に書かせてもらっています。
「熟考 シャーロック・ホームズ」
今回再読した「熟考 シャーロック・ホームズ」は、上述の日本シャーロック・ホームズ・クラブの会員の皆さんがテーマを分担して書いた本で、同様の形式で書かれたシリーズの最終作となっています。(他のシリーズは「SH雑学百科」「解読SH」、「詳説SH」、「探求SH」となります。手元にあるのはこの「熟考」だけでしたので、ちょっと探してみてないようならどうにか入手しなければ。)
最近では日本シャーロック・ホームズ・クラブとして出版される本はあまりないようですが(会員個人、支部などとしては活発に出版されています)、当時(本書の刊行は1987年)は会員が原稿を寄せて本が出版されるなど、クラブの活動がかなり盛んだったことがうかがわれます。
ホームズに関する研究というと、上述したように伝統的にたくさんの人によって論じられてきたテーマも多くあります。過去の文献を読むと、繰り返し現れるテーマも多く、あらかたのテーマは研究され尽くしたように思ってしまいます。しかし、対象をビクトリア時代の社会システムや風俗・習慣、コナン・ドイルにまで広げれば、まだまだ未開のテーマも多くあります。
研究と行っても取り組み方は様々で、本書の中でも作品中で示されている事柄と各種の記録を基に展開される仮説もあれば、かなり自由に想像力を駆使した大胆な仮説もあります。
ホームズとワトソン、そして登場人物の人となりの追求から始まり、文化、生活、地理、そして政治・外交までさまざまなテーマについて会員の皆さんが論じているのを読むのは楽しくもあり、勉強にもなりました。
私の研究方針
こうして様々なテーマに触れていると、では自分はどんな研究がしたいのか、ということを考えさせられます。
個人的には理系の大学院を修了したこともあって、エビデンスベースの研究ということに力点を置いていきたいと思っています。もちろん理系の研究ではありませんので、実験をするわけではありませんが、少なくとも過去の研究事例については必ず下敷きにしたいと思っており、文献を重要視しています。
そういう意味で本書の巻末に挙げられている参考文献リストは非常に有用でした。日本の出版物や英語で書かれた文献もそれなりに収集してきたつもりですが、この30年近く前のリストを見ただけでもまだまだ漏れがあることが分かります。
テーマとしては事件の発生場所や作品に登場する場所の探求に興味があります。この「ホームズの地理学」の分野も先達はたくさんいますので、目下文献収集中です。旧ブログで書いていた「ゆかりの地訪問」もこうした文献も参考に自分の考察を交えて書いてきましたが、新ブログに移ったのを機会に記事移行の際にすこしRemasterしていきたいと考えております。
Tomo’s Comment
こうしてかつて読んだ本も改めて読むと新たな発見があると実感しました。
また往時のクラブの活動に思いをはせ、自分も負けないようにあれこれと発表できるようになるという目標を再認識しました。
一方で文献を揃えること一つとってもまだまだ時間がかかりそうです。奥深い世界ですが、一生の趣味として取り組んでいくつもりです。
日本シャーロック・ホームズ・クラブに関心のある方は、こちらのサイトから入会案内をご覧ください。
「熟考」を含むシリーズは東京堂出版の「SH大事典」に収録されたので、この大事典は当時の集大成と言えるかも知れません。
これらを読むとホームズの研究ネタで語られていないのはないのでは、、と思ったものです。でもJSHCの冊子「ホームズの世界」には次から次と研究発表があるので尽きる事はないようですね。
「熟考」で気になるのはp173の地図です。
参考文献は載っていませんが、先行研究がありこの中に載っている地図と同じです。何が同じかと言うと「コーンウォール・ガーディンズ」の場所はオープンカットになっていますが、実際はトンネルです。
この先行文献のコピーを貰ったのですが、いま見当たりませんでした。BSIの研究会報だったと思います。ご参考までに。
>みっちょんさま
「SH大事典」、もしかしたら持ってないかもしれません。このシリーズがあわさったものなのですね。
私も研究ネタは尽きてしまうのではと思いましたが、探せばまだまだるものですね。
コーンウォールガーデンズあたりにいったときは地下鉄がどこにあるのかは外からはよく観察できなかった記憶があります。
多くの本が参考文献があまり明確に書かれていないのが残念です。あったとしても巻末でまとめて紹介なので、どの部分がどの文献からの引用か分かりません。