【ホームズゆかりの地】100年前のロンドンガイドブック「ベデカー・ロンドン案内」

ベデカー・ロンドン案内1905年版

シャーロッキアンもしくはホームジアンと呼ばれるシャーロック・ホームズを研究する人たちが世界中にいます。私もそんなホームジアンの一人を自認していますが、世界中には桁違いの情熱を持ってホームズに傾倒している人たちがたくさんいて、まだまだ門前の小僧状態。

シャーロッキアンにもいろいろとあって、広くはホームズ好きでホームズに関連あったら何でもOKというところから、ホームズが実在した人物であることを前提に60話の正典と呼ばれる原作を基に研究活動を進める人まで多種多様。

そんなホームズの研究ですが、前提としてホームズが生きていた時代・社会についての理解が不可欠だと思っています。当時のホームズたちの言動を理解するには、現代の常識で判断しては見誤ってしまいます。現代日本とイギリスでも違うのに、これがさらに100年以上間となるとさらに想像するのも困難です。

従って、ホームズが生きていた時代についてもさまざまな手段で情報を得ておきたいと思っており、ヴィクトリア朝時代の風俗習慣に関する本を見かけるとついつい購入してしまいます。

そんな観点から有益だと思うのが当時の観光案内。有名な書籍として、ベデカーのロンドン案内という本があるのですが、今般、日本語に翻訳されましたのでさっそく入手いたしました。

 

ホームズ研究のための書籍

2006年〜2007年にかけてロンドンに留学していたときに、ホームズゆかりの地をあちこち訪ねて歩いていました。

その当時は勉強の傍らだったこともありホームズ作品に登場した地名をただひたすら訪問していただけで、あまり深掘りできていませんでした。使っていた書籍も最初は「Finding Sherlock’s London」という地名と正典の登場シーンだけが書かれた本と、A to Zというロンドン定番の地図だけでした。巡っているうちにグールドクリンガーの注釈本とかホームズゆかりの場所のヴィクトリア時代の写真集など、参考文献は増えていったのですが、ベデガーは当時は知りませんでした。

ロンドンから帰ってからもホームズゆかりの地についての調査は継続していて、アメリカの最古のシャーロッキアン団体であるBaker Street IrregularsやイギリスのSherlock Holmes Society Londonの会誌のバックナンバーを入手したり、ゆかりの地の研究で名高いBernard Davies氏やDavid Hammer氏の書籍なども買い集め、資料も充実してきました。そして、そんな過程で入手したのが、ベデカーの旅行案内でした。

 

ベデカーのロンドン案内

ベデカーというのは、ドイツ人の編集者、カール・ベデカーのことで、1800年代前半に活躍した人です。彼の作成した旅行案内は当時ヨーロッパで最も使われた案内だったそうです。その理由はいくつもあるようですが、観光名所だけではなく、日常的に必要な情報も含めてたくさんの情報が詰め込まれているということで、よりその国の全体像がわかるようなガイドを作ったという点が大きかったとのこと。日本でいうと、るるぶではなく地球の歩き方に近いイメージでしょうか。

カール・ベデカーは1859年に亡くなりましたが、その事業は一族が引き継いで出版が続いたそうです。日本から留学していた夏目漱石や島崎藤村も参考にしていたと言われています。

 

私が最初に入手したのは、Old House Booksという出版社が復刻した1900年版のベデカーのロンドン案内でした。

Baedeker's London 1900 Baedeker's London 1900

単にぱらぱら眺めているだけでも当時の様子に思いをはせることができるのですが、ホームズに出てくる諸々のことについて調べるのにも非常に役に立ちました。

ヘンリーバスカヴィル卿が泊まったホテルを類推するときに近隣のホテルの値段を調べてみたり、ワトソン博士が除隊した直後生活に困ってた頃の暮らしぶりを想像するために食事の値段を調べたり。

もちろん昔の本なので活字が多くてやや調べづらいところはあります。

 

そんなベデカーのロンドン案内を翻訳出版したのが今回入手した本となります。

 

ベデカー・ロンドン案内1905年度版

翻訳されたのはホームズ関連の貴重な文献を多数翻訳・出版されている平山雄一さん。日本・シャーロック・ホームズクラブの先輩会員でもあり、日本人で数人のアメリカのホームズ団体、ベーカーストリートイレギュラーズのメンバーでもあります。

本書も平山さんがシリーズで刊行している「ヒラヤマ探偵文庫」の一冊となっています。(同文庫には貴重な書籍が多くあって、以前紹介した「シャーロック・ホームズ研究1」も同文庫に収められています。)

貴重な文献ではありますが、まさかベデカーのロンドン案内が翻訳されるとは思ってもいませんでした。

見ていただくと分かるのですが、ベデカーのもとの版よりも薄い仕上がりとなっています。

ベデカー日英版

この理由は冒頭に書かれていました。

本書は、Beadeker’s LONDON and its ENVIRONS (Karl Baedeker, 1905)のうち、イントロダクションの第1〜19章を訳出した物である。

ちなみに私が持っている復刻版は1900年版でこちらが1905年版ということで、若干違っているのですが、1900年版では、イントロダクションが25章まであり、その後に地域ごとの場所の紹介が続いています。ただよく見てみると、17章までは同じですが、1900年版の22章が1905年の18章、21章が19章になっているようです。1905年版の原盤を持っていないので分からないのですが、5年の間に構成が少し変わったということとかと思います。

訳出されていないところは、イントロダクションを見てもロンドンの地理と統計、英国の歴史、ロンドンに関する文献等々、他の資料でまかなえる内容ですので訳されてなくとも支障はないと思います。また、本編であるSights of Londonというイントロの3倍近くあるパートは方もする場所の説明ですので、今日の観光ガイドともそれほど大きくは異ならない内容ともいえるかと思います。

ですので、当時のロンドンの様子を知るという意味では、わざわざ英語版にあたらなくとも、こちらで日本語でぱっと読めるという意味でとても貴重な資料となっています。

 

シャーロッキアンの楽しみ方

普通の人が見ると、なんでこのロンドン案内がヒラヤマ探偵文庫から出版されて、ホームズファンが多数購入しているのか、理解が及ばないかもしれません。

しかし、当時のロンドンのことが網羅されていて、ホームズの足跡を想像するのがなんとも楽しいのです。

上でもちょっと書きましたが、ホームズ作品に出てくるホテルがどんな値段だったのかということもよく分かります。ランガムホテル、クラリッジ、チャリングクロスホテルなどもちゃんと掲載されています。

またイギリスとヨーロッパの交通などは最後の事件のホームズの移動経路を考えるときのヒントにもなります。(といっても十分な情報があるわけではないのでもう少し他の文献に当たる必要もありますが。)

その他にも、煙草店のリストを見ればホームズが買ってたオックスフォード通りの煙草店はどこだろうとか、病院のリストを見ればバーツが載っていて喜んだり(載ってるだけで説明はないのですが)、ホームズとワトソンが通っていたトルコ風呂はノーザンバーランド・アベニューにあったのでここで書かれているチャリング・クロス浴場だったのか?とか、眺めているだけで想像が膨らみます。

これらが日本語でさっと、ぱらぱらっと読めるのは大変ありがたいところです。

 

Tomo’s Comment 

ということで、ちょっと珍しいロンドン案内を紹介いたしました。

残念ながら、すでに売り切れになっているため、入手はかなり難しいと思います。Twitterなどを見ているとほしい人は大体入手したと思いますが、将来のシャーロッキアンにとっては入手が難しくなるのはすこし残念。

こうした文献はたまたま出版時にシャーロッキアンをやっていたという幸運がないとなかなか入手が難しいのですが、それは過去の文献も同じで、私が学生の頃とか日本にいなかったときに出版されてあっという間になくなってしまった物も多々あり、これらの入手に四苦八苦しているのと同じことなのかと思います。

つまり、欲しい本、必要な本に出会ったら買っておけということなのでしょう。

そして本は増え続けます・・・。

 

ロンドン関連の本はこちらでも紹介しています

【ホームズ地理学】ビクトリア時代のロンドンを散歩感覚で。当時の写真が満載の「Walks in Old London」を購入

【ロンドン】読むといきたくなる場所がたくさん紹介されていて、ロンドンを再訪したくなる本、「ロンドンでしたい100のこと」

【読食】イギリスに美味しいものってあるのっていう疑問に答えるため「ロンドン おいしいものを探す旅」を読んでみた。

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